no.16. いざ、ガイド付きハンティングへ<前編>
				エゾシカを求めて、初猟へ行こう!

ハンターのありです(って、言ってみたかったんだ)。ついにこの日を迎えることができました!ワタシの初めての狩猟、その舞台は北海道西興部(にしおこっぺ)村です。真冬の北海道、とっても楽しみ。とはいえいつもの旅行とは違うので、いろいろと準備がありました。そんな出発前の様子からお届けしますね!

出発前にしっかり練習!

いよいよ明日出発だね!ハラマキ持った〜?

防寒アイテムは前にアドバイスをしてもらった〈モンベル〉でしっかり準備したよ。銃の準備もね!

じゅう?猟銃の所持許可もらったし、北海道に狩猟登録もしたし、猟友会にも入って……えーと、あと何を準備したワン?

うん、だいぞう師匠のアドバイスで射撃練習をしてきたの!自分の銃で実際に発砲してみないと、ぶっつけ本番になっちゃうからね。

そっか。教習の時は自分の銃じゃなかったもんね。

そうそう。北海道で狙うのはエゾシカだから、大物猟で使う「スラッグ弾」という弾で練習したの。

なんだかすごそうな名前のタマだワン。

教習で使ったクレー射撃用の弾と比べたら、反動が強かったよ〜。最初はびっくりした!

ありちゃん、ひっくり返っちゃった?

アハハ、大丈夫!教習の時は立って構えたけれど、今回はしゃがんで立て膝をついた姿勢で構えたから安定していたと思う。50m先にあるシカの絵が描かれた的を狙うの。

そーゆー準備も必要なんだね。

本番をイメージできて、狩猟に行く気持ちもググッと高まったよ。

自分の猟銃にスラッグ弾。本番を想定した射撃練習にはげむありちゃん。シカを描いた的を狙いました。(埼玉県長瀞射撃場にて)

ありちゃんが使うスラッグ弾とは散弾銃で発砲できる一発弾。シカやイノシシなどの大物を狙う時に使用します。今回ありちゃんが北海道で狙うのは、彼女が前から獲物にしたいと思っていたエゾシカ。奈良公園のシカと同じニホンジカの仲間ですが、大人になると頭からお尻までの長さが150cm、100kg以上にもなる大きな動物です。
初めての猟で威力の強い弾丸を使うありちゃん。狩猟に行く前にはしっかりと練習を重ねるよう勧めました。
※北海道では鳥獣の鉛中毒被害を無くすため鉛弾使用が禁止されています。必ず北海道で使える弾丸を用意しましょう。

公共交通機関を乗り継いで、西興部村猟区へ。

ありちゃん、やっと羽田空港に着いたね。

うん。いつも使う路線だと人の多い駅を通らなきゃいけないから、乗り換えの経路を変えちゃった。ちゃんとカバーしているけれど、どう見られるか気になるし、荷物も多いからね。

うん。とても猟銃を持っているようには見えないけど、気をつかうのは悪いことじゃないって師匠も言ってたワン。

さあ、手荷物を預けなきゃ!念のため、前もって航空会社に猟銃と装弾を持ち込むことを伝えておいたの。

なんて言われたワン?

銃を手持ちのケースに入れた時の長さを聞かれたよ。航空会社で用意してくれるハードケースに入るかどうかの確認みたい。

へー!そんなケースがあるんだね。ぜったい事前に伝えなきゃいけないの?

そんなことはないみたい。でも航空会社によって取り扱いが違うかもしれないから、事前に問い合わせておいた方が安心だね。

航空会社の地上職の方に思わぬコメントを言われ、照れちゃったありちゃん。
あり「女性のハンターさんは来られませんか?」 、職員さん「はい、年配の男性の方なら時々いらっしゃるんですけど、女性は珍しいですね」

さーて、身軽になったぞ。立派なジュラルミンケースに入れられたよ。弾と銃はそれぞれ別のケースだった。旭川空港に到着したら手荷物受け取りのところで係の人に言えばいいんだって。

向こうは雪かなあ〜?

天気予報では晴れそうだよ。雪景色が楽しみ!空港から旭川駅までバスで移動して、そこからJRで名寄(なよろ)駅というところまで行くんだ。

その駅でだいぞう師匠と待ち合わせなんだね。

そうそう。師匠は先に北海道入りしているんだよ。

いいな〜。ボクも飛行機乗って窓から雪景色見たいな〜。

(ああ、犬は客室に乗れないのよ、カリタロー……)今回はお留守番よろしく!無事にシカ肉を持って帰られるよう願っていてね。

楽しみだワン!

今回、旭川空港から旭川駅に行き、JRで名寄駅まで移動したありちゃん。「銃を携帯しながらの初めての旅。特に公共交通機関ではとても気をつかいました!」

小柄な女性ガイドさんが猟区で出迎えてくれました。

名寄駅で合流したありちゃん。防寒ウエア満載のザックと猟銃を背負って笑顔で現れましたよ。さあ、レンタカーで西興部村へ。この村はなんと全域が猟区です。
ちなみに猟区とは狩猟鳥獣の生息数を確保しつつ安全な狩猟を行える有料の猟場のこと。入猟者数・入猟日・捕獲対象鳥獣の種類・捕獲数などについて管理者が独自管理できます。西興部村は北海道で唯一の猟区で、ハンティングガイドをつけずに狩猟をすることは認められていません。
到着した日はもう夕方だったので村の「ホテル森夢(リム)」で一泊し、翌朝、猟区管理協会の事務所へ向かいました。いよいよ初めて猟に出ます!

師匠、雪景色がキレイですね!

これぞ北海道って景色だね。空気もキンキンに冷えている。

ホント!そして今にもエゾシカが飛び出してきそう。

本当に飛び出すよ。北海道ではエゾシカと衝突する交通事故がたくさん起きているんだ。だから注意しながら行くからね。エゾシカは見たことあるかい?

ないです!

とっても大きくて美しい動物だよ。

(そんなシカを撃てるのかなあ〜)

西興部村猟区管理協会に到着!

おはようございます!

だいぞうさんお久しぶりです。ありちゃん、はじめまして!事務局長の伊吾田です。

はい!今日から二日間よろしくお願いします。

こちらこそ。ハンティングガイドとして私と武田が同行します。

武田つぐみです。よろしくお願いします!

女性の方がいて心強いです。よろしく!(とっても小柄でかわいいなぁ)

ありちゃんは、初めての猟なんですよね?西興部猟区は新人ハンター向けのツアーやセミナーも行っていて、ここで初めて狩猟を経験するハンターさんも多いんです。今回も私たちが教えながらガイドしますね。

はい!

今回は「流し猟」に出ます。

流し猟って、車で獲物を探すんですよね?

そうです。車で移動しながらエゾシカを探します。道中、注意点の説明や練習をしますので、さっそく車に乗って行きましょう。ありちゃんは助手席に。だいぞうさんは武田と後部座席でお願いします。

はい!

ありちゃん、乗り込む時の銃の向きに気をつけて。

へ?

銃口は下に向けて乗るようにしてくださいね。降りる時に銃口が同乗者の方を向いてしまうので。

ああそうか!了解です。

では出発します。

よろしくお願いします!

獲物を見つけても道路から発砲することはできません。道路脇に寄せられた雪の山を越えて、雪原に入って構えられる場所に来てからカバーをはずすんです。一連の動きに慣れることが必要ですよ。

はい。射撃の先生からはギリギリまで弾をこめるなと言われて来たのですが……。

それで大丈夫です。銃カバーを掛けたまま銃を持って歩き、狙えそうな場所に来たらカバーをはずして装てんしてください。指示もしますから。

いよいよ流し猟に出発。スピードを落として運転しつつ、雪原や山のエゾシカを目視で探します。

武田さんは雪の中で銃を取り扱うのが大変だったことはなかった?

はい。私は身長が低くて小柄なもので、雪深いところだと銃と一緒に埋まってしまうんです。特に傾斜のあるところでは装てんする時に銃口に雪が入りそうになるので注意しています。

お。シカがいるようですね。狙えるかどうかわからないけれど、行ってみましょう。同乗の方は車から降りないでください。

了解です。

よいしょ。

ありちゃん、車から降りてもドアは閉めないで。音でエゾシカが逃げることがあるからね。そこを越えて雪原に下りてみましょう。

あれ?雪の中を歩くので精一杯でエゾシカがどこにいるかわかりません。

我々が来る間に遠くに行ってしまいましたね(笑)。車に戻って移動しましょう。

慣れない雪に足を取られて獲物を見失ってしまったありちゃん

ガイドさんのシカ察知能力に驚き!そして……

こうやっていくつかのコースを流しながらエゾシカを見つけましょう。

あ、さっそく右側の山際にいますね。

1、2、3頭か。

(双眼鏡で確認して場所と頭数を記録)。

え?え?全然わからなかったー。

ははは。動いている車の中から見つけるんだからすごいだろう、ありちゃん。

毎日探していますからね。慣れです。

完全にシカに反応する目になっているね。

この中にシカが2頭写っていますがわかりますか?難易度は高いです。

あ、2頭いるね。メスか。(車を停車)見えるかな?

メスですね(記録する)。

悲しいくらいわかりません〜。でも今見えているシカは狙わないんですね。

ありちゃんの散弾銃の射程距離ではあの獲物は遠すぎますね。猟区ではバンバン撃っているイメージを持つ人もいるんだけど、本当に狙える獲物しか撃ちません。

そうなんだ。むやみに撃ちに行かないんですね。

はい、安全第一です。あ、左側にいますね。林と雪原の境目のところ。

え?うーん、あ!あれか。

行ってみましょう!

(ドキドキドキ)

(落ち着いて。がんばって)

車から降りて獲物にそーっとそーっと近づいていく二人。

(小声で)どこにいるか見失ってないかな?

はい…。

銃のカバーを取って、装てんしましょう。ゆっくりでいいからしっかりと構えて……

はい。

………

……

——— 果たして獲物を前にしたありちゃんは?

気になる後編、次回17につづく!

NPO法人西興部村猟区管理協会 エゾシカの有効活用を実践するNPO法人。エゾシカによる農林業被害を軽減しつつ地域資源として持続的に活用し、西興部村の活性化につなげている。道内外のハンターのためのガイドハンティングや新人ハンター研修のほか、大学と連携した調査研究と実習の受け入れも行う。狩猟者以外でも自然とエゾシカの有効活用に親しめるエコツアーも開催している。
http://www.vill.nishiokoppe.hokkaido.jp/Villager/Ryouku/
※今回は旭川空港を利用しましたが、紋別空港からもアクセスできます。

伊吾田順平さん 神奈川県出身。ハンターになって8シーズン目を向かえる西興部村猟区管理協会事務局長。ハンティングガイドのほか、猟区での取り組みを中心とした講演も行う。奥様も影響を受けてハンターになり、有効活用の一環として皮なめしのサークル活動もされている。北海道猟友会興部支部西興部部会所属。

武田つぐみさん 群馬県出身。大学で狩猟管理学を学んだことをきっかけに狩猟の道へ。身長145cmの小柄な姿ながら狩猟から解体までひとりでこなし、ガイドのアシスタントも務めるタフな日常を送っている。ハンターデビューして2シーズン目。北海道猟友会興部支部西興部部会所属。


                 

バックナンバー

トップへ戻る