no.10 
				食肉利用している地域の取り組みを拝見 みんなが狩猟肉を食べられるように……。

カリタローだワン。ありちゃんがレストランで食べているシカ肉も、もともとはハンターさんが獲った獲物。あのおいしいシカやイノシシのお肉は「解体処理場」っていうところで加工されてからレストランにやって来ているんだって。解体処理場で加工せずに、ハンターさんの獲ったお肉をそのまま店で出しちゃダメらしい!何が違うんだろう?
今回はその解体処理場を見学するために「伊豆市食肉加工センター『イズシカ問屋(どんや)』」に行くんだよ。でも、とっても「えいせいてき」な場所だからボクはお留守番になっちゃった。伊豆のおみやげ買ってきてくれるかなぁ。

ふえるシカ、困る里山。

今日は伊豆市の解体処理場を見学させてもらいます。ハンターから持ち込まれたシカやイノシシを飲食店など流通用の食肉として加工する施設だよ。「おいしいのはじまり」を知るために、ありちゃんにはぜひ見ておいてほしい場所なんだ。

はい。どうやって食肉にするのか、とても興味あります!前回の射撃場見学の時に虎谷さんが「捕獲した獣の肉がほとんど活用されずに廃棄されている」って話していたことも気になってて。でも……血とかニオイとか大丈夫かな。ちょっと心配。

うん、ありちゃんはどんな感想を持つだろうね。今回はもう一人同行するよ。私の親戚で野生動物や自然環境について勉強中の健太くんだ。

ありちゃん、はじめまして!実はボクも狩猟や捕獲した動物の有効活用に興味があるんです。処理場も初めてなのでワクワクしています。

若手男子が狩りに興味あるなんてうれしい!よろしくです。

では、「イズシカ問屋」に入ろう!

イズシカ問屋入り口。マークは伊豆半島と鹿をデザイン。

イズシカ問屋?

はい、それがこのセンターの名称です。おはようございます!皆さん。今日ご案内する、市職員の相原です。

よろしくお願いします。こちらの二人は初めての解体処理見学です。

おはようございます。イズシカって初めて聞きました!

それはぜひ今日の見学でイズシカに詳しくなっていってください。

こちらの方も鳥獣被害が深刻そうですね。

いまや全国の農林業関係者が困っている状況と聞いています。

はい。ここ伊豆市も例外ではなく、シカの生息数が増えてきたことで農林業被害も拡大しています。また、森林では下草や樹皮の食害で裸地化してしまい、土砂崩れの危険性が増しています。

まずはパネルで被害の状況を教えてもらう。シカによる樹皮はぎの被害により衰退した天然林。

うわ。土がむき出しに。樹皮もはがれて木が枯れている。

シカは里山まで降りてきているので、せっかく育てた農作物も食べられてしまっているんです。鳥獣による被害額は年間1億円を上回りますね。シイタケや稲、特産のワサビまで食べられています。

え!ワサビ?辛くないんでしょうか。

ホントにね。辛味は好まないと思うんですけど、エサになるとわかれば食べてしまうのかもしれません。

どうしてシカが増えてしまったんでしょうか?

いろいろ理由は考えられますが、平成15年までメスジカの狩猟が禁止されていたこと。また、温暖化の影響で冬を生き延びるシカたちが増えたことも理由のひとつでしょうね。

それにもともとシカは繁殖力の強い動物なんだよ。メスは2歳くらいから年に一頭出産するので、オトナのメスの数だけ毎年頭数が増えることになる。

増え過ぎるとエサがなくなるから人里に降りてくるんですね。

そう考えられています。そこで、適正頭数にするために猟期以外も有害鳥獣捕獲としてシカを捕獲しています。ただ、獲ったシカを活用することができず、ハンターさんが自家消費する以外の多くが山に埋められている状態でした。

もったいない……。

多くの獲物を埋めることは、命と向き合ったハンターさんにとってもつらいことだと思います。大切な獲物はできるだけ有効活用したい。そんな思いから作られたのがこのイズシカ問屋なんです。

害獣を「恵み」に変える、地域の取り組み。

あの、そもそも野生動物の「処理場」ってどうして必要なんでしょうか?

野生動物の肉を食肉として販売するには「食品衛生法」を守らなければいけないんです。その食品衛生法にのっとって保健所から許可を受けた施設で、衛生的に解体処理されたお肉しか販売できません。ここ静岡県では、より安心して食べられるお肉にするために、独自で作成した衛生処理マニュアルもガイドラインとして活用しています。

処理場を通さずに野生肉を販売する営業行為は法律違反なんだよ。ここは伊豆市が運営しているんですね。「イズシカ問屋」という名称も面白い。

捕獲されたシカを処理する場所、というより、伊豆市の新たな特産品としての食肉を生産する場所であると伝えたい。「イズシカ」というブランド名が広まるといいなと思っています。

伊豆のシカ肉だからイズシカ。そうだ!「イズシカ丼」っていうのもあるんですよね。

はいっ!イズシカ問屋で安全に加工されたシカ肉を使って、市内各店で多彩などんぶりにしているんですよ。ここでシカ味わえないご当地メニューです!

たーべーたーいー!だいぞう師匠!ぜったいに食べて帰りましょうね、ね!

ぼ、ボクも!

いいね。地元の特産品を使ったご当地料理は私も楽しみだよ。

また、ハンターさんから獲物を買い取ることで捕獲意欲の増進につながれば……とも考えています。あ!ちょうど今、獲物が持ち込まれたようなので、見学に行きましょう。

食肉を扱う場所の見学のため、ありちゃんたちも帽子とマスクで衛生的に。

安全でおいしいお肉をいただくために

わあ!いくつも部屋がある。食材を扱うだけあって清潔そうですね。

ホント、キレイで明るい。窓が多くて中の様子も見やすいし。

イズシカ問屋では搬入されたシカやイノシシを、搬入口からA〜Dの部屋を通って衛生的に処理し、卸し販売店へ出荷しています。
A)一次処理室(検査、内臓摘出、剥皮、洗浄)
B)冷蔵・熟成室
C)二次処理室(食肉加工、真空包装、瞬間液体凍結、金属探知機チェック)
D)冷凍保管

まずは一番奥の部屋へどうぞ。ここは外につながっていて、ハンターさんは素早く獲物を運び入れることができます。ついさっき、くくりわなで獲れたシカが運び込まれたところですよ。搬入してくれたのはベテランハンターの岡崎さんです。

おはようございます!

おはようございます。今朝は2頭獲れたよ。

わあ!こんなに近くで獲物を見るのは初めて。わなで獲れたんだ〜。

くくりわなで獲って、至近距離から猟銃で止めさししたんだよ。

思ったより血は出てないんですね。

放血してるからね。止めさししてすぐに血抜きを上手くやって、素早く持ってこなくてはいけないんだ。

仕留めたシカの頸動脈に刃を入れて血を抜くことを放血と言うんだよ、ありちゃん。できるだけ早く血を抜くことで肉の質を維持するんだ。

なるほど。


獲物を受け入れる条件はあるんですよね?

はい。食肉を扱うということを重要視してもらえるよう、搬入のための研修会を行っています。この研修会を受講したハンターさんだけが搬入することができます。

命をいただいた獲物だからね。捕獲しても埋めて処分するのはしのびない。こういった施設ができて、地元の人にも広く味わってもらえるのは良いことだと思う。

ふむふむ。

この日、くくりわなの獲物(シカ)を搬入したハンターの岡崎さん。 搬入できるのは「伊豆市内に住民登録している猟友会会員」「伊豆市有害鳥獣捕獲隊員」のいずれかで、静岡県のマニュアルに準じた研修会を受けた人のみ。「獲って運ぶところから食材としての扱いが始まってるんですね」とありちゃん。

運び込まれたシカは大きさや重さ、性別などの個体検査をしながら洗浄して解体処理されます。専門の職員が作業しますよ。

個体の管理もされているんですか?

はい。いつ、どこで、だれが、どんな方法で捕獲したか追跡できるよう、商品に個体番号をつけています。

野生のお肉でトレーサビリティ(生産履歴)がしっかりしているなんて驚きました。消費者として安心だな〜。

このあとシカを後ろ足で吊し、内臓を取り出して頭部を切り離します。

とことん衛生的で機能的な設備と、獲物が処理されていく様子に釘付けの二人。

ものすごくテキパキと作業が進みますね。で、あの……オナカを開いて内臓を出した時にニオイを覚悟していたんですが……あんまり臭わない。

そうだよ。内臓を傷つけなければそんなに臭わないんだ。消化器の内容物を出さないことは衛生的でもあるからね。皮をはがす時も吊したままにして、肉が床や毛皮に触れないようにするんだ。雑菌が付着しないようにね。

また、この施設では肉の洗浄に殺菌効果の高い電解水を使っていて、解体作業中に食中毒菌をシャットアウトしています。この後、吊したまま隣の熟成庫に入れて、数日間冷蔵保管します。

熟成させることで旨みが増すんだよ。

熟成庫に吊されているところを見たら、もう食材に見えてきました。さっきまで獲物!って感じだったのに。

この熟成庫はさらに隣の二次処理室(ブロック肉に切り分ける部屋)につながっています。移動しましょう!

各作業の部屋が並んでつながっているから、搬入から加工まで一連の流れで進められるんですね。

そうなんです。今は熟成庫から出した肉を部位ごとに切り分ける作業と、真空パック詰めして冷凍する作業をしているところです。切り分けている職員は元お肉屋さんなんですよ。

ものすごく手際のいいさばき方だなぁ。参考になりますね。

テキパキしていますね〜。職人技だ!

ブロックに切り分けられ、真空パックされた肉は、あちらの「瞬間液体凍結」できる機械で冷凍します。マイナス30℃のアルコール液による急速冷凍をすることで、解凍後のドリップ(肉汁)を軽減させたり、柔らかさも保てるんです。この冷凍されたイズシカを販売しています。

左>真空パックしたお肉を急速冷凍します。
右>パッケージにはイズシカブランドの印。

金属探知機にもかけるんですね。残弾や破片がないか調べるんだよ、ありちゃん。

狩猟肉ならではの工程ですね。

実は、金属探知機を導入した当初、残弾も破片もないのに反応してしまうことがありました。シカ肉はとっても鉄分が多いので、血中の鉄分に反応してしまったんです。急遽、金属探知機のメーカーさんに来てもらって設定を調整しなければいけないほどでした。シカ肉に鉄分が多いのは知っていましたが、まさかそれほどまでとは……と驚きましたよ。

すごい!!貧血気味の女友達に教えなきゃ。

今日見てもらったイズシカ肉は、伊豆市内の卸問屋さんを通じて市内のスーパーや飲食店に届けられます。今後も地元の方々やハンターさんとますます連携を深めて、地元の方や伊豆を訪れてくれる皆さんにイズシカを楽しんでもらえるようにしたいです。ありちゃんのお友達にも、ぜひ伊豆に来て安全でおいしいイズシカを食べてもらいたいですね。

友達みんなに宣伝しておきます!
(イズシカ肉……カリタローも連れてきてあげたいな)

今日は本当に勉強になりました!ありがとうございました!

こちらこそ、ありがとうございました。

おまけ。イズシカ丼おいシカったよ。

お待ちかね!ご当地名物のイズシカ丼。

やったー!見学を終えて、三人でイズシカ丼を食べにお店に入りました。さっそくいただきまーす!

念願のイズシカ丼をいただきまーす!「カリタローにもお土産を買って行ってあげないと…あれ?健太くん大丈夫?」、ありちゃんはごちそうを前にすると元気ですね。

今日は獲物が食肉に加工されるまでの一連の流れを見学したね。感想を……って、ありちゃん、モリモリ食べているね(笑)。それに比べて健太くんどうした?食欲ないの?

ええ、ちょっと、見慣れない内臓を目の前で見たもので……。

ワタシも見るまでは不安だったよ。実際に見ると肉も内臓もキレイな色をしていたし、衛生的な施設だったせいか、ニオイも気になるほどじゃなかったです。

私が見てきた経験だと、けっこう女子の方が解体の場面に強いのかなと思う。男子はちょっと引いて見ている印象があるよ。

料理しているせいか、食材として見る女子が多いのかも。あとね、解体って、森の恵みをいただくための儀式というか、ちゃんと命と向き合っている気がしました。獲物がかわいそうと思う気持ちを越えた感覚というか。

それはボクも感じました。獲って食べるまでに関わる人の思いも伝わってきた。お、ちょっと食欲がわいてきたぞ。

それは良かった。でも、感覚も食欲も人それぞれだから、気持ちに無理をしなくてもいいんだよ、健太くん。初めて見た衝撃や感情は大切だと思うし。

イズシカ問屋で見た解体はすごく手際が良くて一見簡単そうなんだけど、シカやイノシシの大きさを考えると、自分で解体するのはなかなか大変な作業だなと思いました。

うん、慣れるまでは大変かもしれないね。でも、先輩ハンターに教わったり、手伝ってもらって一つずつ上達していけばいいよ。

はーい!

イズシカ問屋前の祠(ほこら)を見つめるありちゃん

相原 和真(あいはら かずま)さん 伊豆市役所観光経済部農林水産課。自分でもわな猟免許を取りイズシカ問屋で狩猟や獲物の有効活用について勉強中。「わなにかかったイノシシは迫力があって、最初は目を合わせるのも怖かったです」。イズシカ肉の栄養成分にも魅力を感じ、「健康食として知ってもらいたい」とも話していました。

イズシカ問屋についてはコチラ http://www.city.izu.shizuoka.jp/form1.php?pid=3137


 

次回のありちゃんにはどんな出会いが待っているかな?お楽しみに!

次回11につづく!

                 

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