VOL.5-4

山の恵みを糧とする、現代「猟師」のライフスタイル。[北海道編:4/4]

2014年12月22日
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今回お訪ねした鍋澤さんは、プロフェッショナルなミートハンター。ここまでその狩猟のスタイルや考え方などをお聞きしてきましたが、では仕留めた獲物は、そのあとどうなるのでしょうか……。ふだんの生活の中では触れることのない、狩猟肉の食肉生産の現場を、ちょっとだけ見せていただきました。


あり

ところで鍋澤さん、ここでは一年を通してエゾシカの精肉を出荷しているんですよね?

[鍋澤さん]

そうだね。冬場の猟期は狩猟で、それ以外の時期は有害鳥獣駆除で、日高地区のエゾシカを一手に引き受けているね。それだけでなく、ペットフードの原料としてのエゾシカ肉も供給しているんだよ。それで「日高エゾシカ総合センター」っていうんだけどね。

あり

なんかカッコいいネーミング! それで、年間にどのくらいのエゾシカを扱っているんですか? 

[鍋澤さん]

受け入れとしては、だいたい6000頭くらいかな。

あり

6000頭! その全部を鍋澤さんが撃ってるんですか?

[鍋澤さん]

まさか! ウチの会社「北海道食美樂」としては、オレのほかにも契約ハンターが6人くらいいるんだけど、あとは地域のハンターさんが持ち込んでくる駆除個体の受け入れだね。もちろんその中には、着弾点が胴体のど真ん中だったり、食肉利用にはムリのあるものが多いし、そもそもサラブレッドの生産者さんが自分の牧草地を守るために駆除している場合は、食肉利用を考えてはいないからね。より簡単、確実に駆除できるような撃ち方をすることが多いんだよ。

あり

なるほど〜。鍋澤さんの撃ち方とは、そもそも目指すところが違うんですね。

[鍋澤さん]

そうだね。ともかく、地域の駆除個体は基本的に受け入れていて、まず駆除者の登録番号と、月ごとの駆除個体の管理番号を記録するんだ。それは行政に報告しなけりゃならないからね。

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あり

あ、鍋澤さんが獲物に書いていた番号ですね。それに、耳と尻尾も赤く塗ってある。

[鍋澤さん]

で、その中で食肉として利用が可能な個体は、もちろん最優先で解体処理して枝肉にする……んだけど、まあ最初から美味しく食べるつもりで狙っていないと、難しいことが多いんだ。搬送が後回しになって時間がたっていることもあるしね。北海道のガイドラインとしては、捕獲後2時間以内に処理施設に搬入された個体でないと、食肉流通は認められないんだよ。

あり

その部分は鍋澤さんや契約ハンターさんが中心になっているわけですね……。でも、食べるのが難しい個体は、どうなるんですか?

[鍋澤さん]

まず人間が食べるための食肉に適しているかどうかを判断し、それを処理するでしょ? で、その次に状態のいい個体は、実はドッグフード用に解体処理してるんだ。

あり

お! ワンちゃんたちのエサになるんだ! そりゃ美味しいだろうな(笑。

[鍋澤さん]

まあ人間用よりは後回しになるんだけどね。解体処理の作業場所も、食肉用とドッグフード用と完全に分けてあって、ドッグフード用の処理をはじめる時点では、ほら、右の食肉用の作業場はシャッターを閉めてあるでしょ。

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あり

そこも衛生管理なわけですね。で、私たちが食べる分と、ワンちゃんが食べる分で、年間に6000頭になる、と……。

[鍋澤さん]

いやいや、それで半分くらいだよ。食肉になるのが1000頭、ドッグフードになるのは2000頭……くらいだな。あとの3000頭は、駆除捕獲の記録を取ったら、そのまま廃棄だよ。

あり

……もったいない! でも、ちゃんと利用できるように獲ろうとすると、駆除の効率は下がっちゃうわけですね。

[鍋澤さん]

本当はこの施設、年間に2万頭くらいの処理能力があるんだよ。まあそうなったら、いまはメインの解体担当が2名なのを、もっと増やさなきゃならないと思うけど、そうなればエゾシカ被害も減らせるし、地域に雇用も生まれるし、いろいろとプラスになることが多いんだけど……そのためにはまず、高い技術を持ったハンターが増えないと、ね。

あり

鍋澤さんは、そこを目指したんですねえ。

[鍋澤さん]

実は長いこと会社勤めをしながら週末ハンターだったんだけど、自分がしたいと思うことを生活の中心にして、それを続けられる間はずっと続けていこうと考えたら、この道がいいかな、と思ってね。サラリーマン生活を早めに切り上げて、この会社の立ち上げに参加したんだ。

あり

狩猟者としては、ひとつの理想型だと思います。そういう人がもっといてもいいのに……。

[鍋澤さん]

まあ仕事としてみると、決して簡単ではないからね。でも、意味のある生き方だとは思うよ。弟子入りは、やる気があれば本当に誰でも教えてあげるから、若い人が挑戦してくれるといいんだけどね(笑。

あり

わたし、もうちょっと修行が必要ですけどね(笑。


あり

それにしても北海道に来て、本当に狩猟が身近というか、生活に近いところにあるんだな、と感じているんですよ。大きな自然の中に暮らしがある、というか……。

[鍋澤さん]

まあハンターが多いからね。軽トラックの後ろにウインチが着いてたら、まずハンターだよね。

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あり

このワイヤーが巻いてあるヤツですね。これで仕留めた獲物を引き寄せるんだ。ワイヤーって、どのくらいの長さがあるんですか。

[鍋澤さん]

だいたい300メートルとか……。

あり

おおお〜っ! さすが北海道!

[鍋澤さん]

さて、じゃあ昼メシにしようか。ウチはいつもみんなで食べるんだけど、今日はエゾシカ焼くよ。

あり

はい! いただきます!

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というわけで、お昼ごはんには赤身の美しい熟成肉のエゾシカを、本当にたくさんいただきました。右がロース、左がモモのうちの、シキンボウという部位です。これをシンプルに塩とコショウで、弱火でじわっと……こんなに食べられません!とか思っていても、実はペロりと平らげられちゃうのが、さっぱりと美味しいシカ肉の魅力です。というか、魔力かも(笑。
ともあれ、サラブレッド街道に建つ童話のような赤屋根の下では、北の大地の恵みがていねいに迎えられて、今日も美味しい熟成エゾシカ肉が育っているのでした。

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鍋澤正志さん

なべさわ・まさし。日本初となるエゾシカ専門の食肉処理会社「北海道食美樂」創業メンバーとして、フルタイムで猟に出るミートハンター。食肉のプロとして射撃を極める64歳。