VOL.1-3

山を知り、獣を知る。そして自分の足で、己を知ること。[岐阜編:3/3]

2014年9月29日
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長屋さんと宮本さんに案内していただいた板取の集落は、日本の原風景のような山里の暮らし。人々の暮らしと野生の生き物たちが、想像以上の近さで接している印象を受けました。尾根筋の狩り場から山を下りてくる道すがら、あちらこちらにシカやイノシシ、あるいはクマの痕跡が見えます。狩猟は、ごく自然に、日常の中にありました。


[長屋さん]

40キロから50キロあるイノシシをひとりで2頭も撃ったことがあってな、たまたまそこにいた車に山から降ろすのを手伝ってもらって、小さい方のオスをやって、自分は大きいメスを取ったわけだ。そしたら、それがひねてて固くて、美味くなくてなあ(笑。4歳か5歳だろうな。で、手伝ってくれた人にやった小さいオスは、えらく美味かったそうだ。

あり

野生の獲物ですから、食べてみないと……ですよね。それも狩猟の面白さだと思いますけど。

[長屋さん]

まあ腹を開けてみないと、なんともわかんないこともあるからなあ。最近はやらんけど、昔はよく、獲ったイノシシの血をちょいと舐めてみたもんだよ。いいイノシシの血はすごく香ばしくて、何とも言えんまろやかな味で、塩味があるでな。自分の指を切ったりして舐めることがあるが、あれよりも塩気は強いかな。

あり

へえええ! そんなお話、初めて聞きました!

[編注]かつては感染症などに関する意識も大らかで……ベテラン狩猟者の中には同じような経験値もあるようだが、馬刺など高度に管理された特別なものを除いては、獣肉の生食を避けるべきなのは今も昔も変わらない。中でもイノシシはブタ類の習性として泥浴びを好むことなど、シカ類に比べても病原性大腸菌などのリスクが高い。生肉の取り扱いは衛生面に留意し、きちんと加熱しておいしく食べるようにしたいもの。

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[長屋さん]

この茶色いところは、シカの食った跡でな。リョウブ(サルスベリ)の木だ。これくらいだと去年のだな。今年のキズなら、まだ真っ青だ。まああの木は強くて、なかなか枯れんのだがな。

あり

それにしても、本当にあちこちにたくさんシカやイノシシの跡がありますね。

[長屋さん]

このあたりはイノシシもよく通る場所だでな、その先を入ると沼田場(ぬたば)もあって、泥浴びしとるでな。その沼田場がまだ使われているのか、もう来なくなって乾いてるのか、それも見きわめるのが大事だな。

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あり

ここは水も溜まってるし、まだ来てるってことですね?

[宮本さん]

そやな。そしたら次に、浴びた泥をこすってる木を探すと、沼田場に出入りする獣道が見えてきて、動きが読めてくる、っちゅうこっちゃ。

あり

えーっと……ありました! これ、わりと高いところまで泥がついてますから、そこそこ大きいイノシシが来てるってことですよね。

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[宮本さん]

そうや。とにかく猟師は観察眼が大事や。

[長屋さん]

宮本さんは和歌山からこっちに来て、猟をするようになった当初はカモシカもイノシシもわからんようだったけど、いまじゃこの男について山を行ける者はおらんくらいになったからなあ。ワシは無線であっちやこっちや言っとればいいで、楽だがな(笑。

あり

その巻き狩りでイノシシを追い込んで、最後に撃って仕留めるときには、イノシシは動いてるわけですよね?

[長屋さん]

そりゃ走ってることもあるわな。それに、イヌと格闘してるところを撃つことも多いから、ライフルやと跳弾がイヌに当たるのも怖いで、ワシは散弾銃やなあ。競技の射撃や有害鳥獣駆除では12番口径を使うこともあるけど、実猟では20番しか使わん。20番なら飛距離も殺傷力もそんなに落ちんけど、弾傷は小さくなるで、肉の歩留まりもいいわな。

あり

それで撃とうとしても、狙いを付けてもイヌが獲物にからんで……ってことはありませんか?

[長屋さん]

まあ狩りに使うイヌも、訓練じゃどうにもならん部分があるでな。素人は獲物にガッと噛み付くようなイヌを「ありゃあいいイヌだ」というもんだけど、いちいち野生のイノシシに噛み付きにいってたら、あっというまにイヌのほうがやられてしまうでな。いい狩猟犬の素質は、最初はよく吠えることだな。

あり

一定の距離を保って吠える、ってことですね。それで矢先が開けば……

[長屋さん]

イヌが絡んでて、それが獲物の後ろであろうが前であろうが、狙える隙間は必ずあるでな。それをしっかりと狙えばいい。ビビらんことだな。

[宮本さん]

とにかくビビらんで、ちゃんと狙って、ちゃんと撃つこと。それに尽きるわな。

あり

わたしなんかまだまだ修行が足りませんけど、自分の力量だけでなく獲物とイヌの様子や、周囲の地形や状況なんかも、自分の身に付けないときちんと撃てない、ってことですね……。

[宮本さん]

そのためには、山に入って歩かんとな。知ってるだけやなく、経験せんと知識も生きんのや。

[長屋さん]

わしらはどんな山に行っても、山の格好を見て「あそこにシシがおるで」とわかるもんやけどな。まあ山だけじゃなく、ここらは近くの田畑でも荒らされているとるで、ちょっと見に行くかね。

あり

はい、お願いします!

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あり

……そんなお話を聞きながら山を下りましたが、そこから見に行った「近くの田畑」も山裾に近い場所ばかりで、おふたりはまたヒョイヒョイと斜面を登り、仕掛けた箱わなや沼田場の様子を見て回って、さすがの健脚。ついていくのが大変でした。そして、深く印象に残ったのは「ビビらんことや」というひとこと。まずは射撃練習、もっとしなきゃ!


板取のカモシカ率いる名コンビにご案内をいただいた岐阜の狩り場、いかがでしたでしょうか。正面から山と、獣と向かい合って生きる達人の域には、はるかに遠い道のりですが、それでも「自信もってな!」と背中を押してもらえた狩りガールのありちゃんでした。

次回は狩猟の現場からちょっと目先を変えた番外編として、同じ岐阜でも岐阜市の市街地にほど近い金華山のイノシシ駆除や、岐阜大学が取り組む野生鳥獣管理の研究について、少しだけ触れておきたいと思います。ではまた、お楽しみに……。


長屋行雄さん

ながや・ゆきお。1928年生まれ、86歳。狩猟歴60年の大ベテランながら、いまも山に入り続け、狩猟仲間から「板取のカモシカ」と呼ばれる。これまでに獲った獲物は900頭を超えている。

宮本勲さん

みやもと・いさお。1944年生まれ、70歳。仕事の関係で和歌山から岐阜の地に移り、かねて念願だった本格的な狩猟をはじめる。それ以来の右腕として、長屋さんとは長い付き合い。

大野恵章さん

おおの・やすふみ。岐阜県猟友会副会長(現・会長)、岐阜市猟友会会長。趣味の狩猟とは別に、金華山など岐阜市内での野生鳥獣出没事例への緊急対応も頻発し、個体数管理の施策でも多忙な日々。