VOL.8-2

あと10年──未来への想いを「狩猟学校」に託して。[岩手編:2/3]

2015年2月16日

岩手県花巻猟友会の会長、藤沼弘文さんに会ってみたい!と思ったのは、2013年にスタートした「狩猟学校」のことが気になっていたからでした。立ち上げ前の発表から新聞記事でも話題になりましたが、狩猟オフシーズンの2期を経て、二ケタの若手狩猟者を誕生させた全国でも初の試みは、いまも注目されています。実はこの日も地元のTV取材が、校長である藤沼さんと、卒業生であるよっちゃんを追っていました。

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それにしてもカメラさん、いっしょに雪山を歩くなんて……おつかれさまです!

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「狩猟学校」の開校について、当時の新聞を読んでみました。2013年5月9日、岩手日報の記事です。

──全国初、銃狩猟者の育成学校 花巻に8月開設

花巻市のNPO法人市射撃場・施設管理総合支援機構(藤沼弘文理事長)が、銃狩猟者の育成学校を8月に開校する。県によると、県内の銃狩猟者数は2012年度、4年前より511人も減り1683人と減少の一途をたどる。高齢による引退が相次ぐ一方、後に続く若者が少ないのが要因だ。学校では3日間の「短期集中指導」で若者らに狩猟の魅力や知識などを伝え、後継者確保を目指す。

同機構によると、狩猟者育成学校は全国で初めて。同市湯口の市クレー射撃場をメーン拠点に、受講生は金土日曜の3日間学んで「卒業」する。学校は4週にわたって開校する予定だ。獲物の捕獲方法の講義や解体実技に加え、銃所持許可の「入り口」となる県公安委員会の学科試験の内容を講義。所持に関する法令や銃や火薬の取り扱いについて教え、合格に導く。

県警によると、県内の猟銃がメーンの銃所持者は1998年から半減し、下げ止まる気配がない。藤沼理事長は「今やハンターの世界で60歳は〝小僧〟。ここで後継者を育てないと狩猟文化が途絶えてしまう」と開設理由を語る。

うーん……この記事だけでは、どれほどの想いが込められているのか、そこまではわかりませんね。じゃ、校長先生に聞いてみましょう!

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あり

藤沼さんは花巻猟友会や有害鳥獣対策実施隊の責任あるお立場に加えて、さらに射撃場の管理運営もされていて、そのうえで「狩猟学校」もスタートさているんですよね。本業もお忙しい社長さんなのに、本当にフル回転ですね(笑。

藤沼さん

あのね、あと10年だと思ってるんだよ。

あり

10年?

藤沼さん

いまの狩猟者は高齢化していて、残念なことに、自分があと何年やっていられるか……ということで頭がいっぱいな人もいてね。そうしているうちに、下の世代とは間が開いてしまっている。そこをなんとかして狩猟離れを食い止めるのは、ここ10年のうちになんとかしないと後がない、と思ってるんだ。ここまで狩猟を趣味としてきたぼくたちが、10年後にも若い世代が同じように狩猟を楽しめるよう、きちんとつないでいかなきゃならない。それは義務だし、責任なんだよ。

あり

藤沼さんが狩猟をはじめたころは、どうだったんですか?

藤沼さん

最初はとにかく鉄砲を撃ちたくて、大学で射撃部に入ったのがきっかけだった(笑。でも、そのあとで狩猟が楽しいことを知ってね。ぼくは幸いなことに、地域でいい先輩にめぐり会えて、いい勉強をさせてもらった。でも、そのときに出会った人からダメなことを教わってたら、ダメな狩猟者になっちゃったわけでしょ? 狩猟者が減ってくると、いい先生に出会えるチャンスも減ってしまう。だから、きちんとしたことをきちんと教える学校が必要だと思って……というか、運転免許を取るのに自動車学校があるのに、狩猟免許を取るのに狩猟学校がないなんて、ダメでしょ(笑。

あり

それは……そうですよね(笑。

藤沼さん

もちろん技術だけじゃなくて、山の命とどう向き合うか、それをどういただくか……そこまでちゃんと教えてあげて、それでこそ「狩猟学校」だと考えているから、狩猟免許や銃の所持許可だけでなく、解体から料理まで、全部きちんと教えてるんだ。

あり

料理まで! それ、わたしも教えてもらいたいです!

藤沼さん

もちろん未経験者でなくても歓迎するよ。でもまあ、いまは現場にいるわけだから、料理の前に、まずは解体だね。

あり

はい、お願いします!

もちろん解体だけでなく、ベテランのハンターさんと山を歩いていると、いろんなことが勉強できます。例えば今日のような雪山では、雪がチラチラ降っているというのは、足跡の様子も刻々と変わっていく……ということを意味します。

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これはわかりやすく、右が人間、左が獣の道になっていますね。

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こちらは単独の足跡……ですが、新しい雪でだいぶ埋まっています。

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これはまだ新鮮! ヒヅメの輪郭も残っています。……そんなことを考えながら、少し開けた場所に着きました。今回の巻き狩りでは、猟果はシカ2頭。先に行ったよっちゃんたちが、山の上から獲物を下ろしてくる段取りです。

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あり

よっちゃん、おつかれさま! 大きなシカだったね。

よっちゃん

……ふぅ。途中に倒木が多くて、くぐったり乗り越えたりしなくちゃならなくて、たいへんだった!

藤沼さん

よっちゃん、ありがとう。今日は新しい場所で仕留めたわけだけど、こりゃ下ろすの大変だな……。倒木が多いんじゃソリとか使ってもダメだね。次回はこの場所、ちょっと作戦を見直そうね。

よっちゃん

……そうしましょう……ふぅ。

藤沼さん

よし、手早く解体しよう。ありちゃん、やってみるよね?

あり

はい、お願いします!

藤沼さん

じゃ、このナイフを使ってみて。これ、狩猟学校の卒業生にプレゼントしてるヤツなんだよ。

この日の2頭のシカは、それぞれ80キロほどでしょうか。ホンシュウジカとしては立派なサイズです。さすが北限! そして、それ以上に「おお〜!」と思ったのは、皆さんの手際がいいこと。雪の上での野外解体ですが、最初にシャベルで雪をよけて平らな作業場所を作る人、解体した肉を入れる袋を準備する人、とくに号令がかかるわけでもなく、ささっと準備が進みます。

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さすが経験豊富な皆さんのチームワーク、息もぴったり! 素早く内臓を摘出して、みんなで皮をはいで、いよいよ解体……という段になって、フィールドワークがはじまりました。

藤沼さん

はい、ここからはありちゃん実践ね。……あ、そこはそうじゃなくて、こっちから刃を入れていくときれいに解体できるから、こう骨に沿ってナイフを……

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藤沼先生、ナイフの扱いが巧みなだけでなく、教えるのも上手! そしてなにより、教えるのが楽しそう! お借りしたナイフの切れ味も抜群でしたが、指導も的確で、いい勉強になりました。


あり

そしてこのあと、解体したシカ肉をたくさん分けていただき、東京の自宅にチルドで送ったのですが……翌日、帰宅するのを待ち構えていたかのように届いた肉を、ひたすら抜骨、トリミング、小分け……。足3本を一気にバラして、なんだか少しだけコツをつかんだ気がします。ありがとうございました!


ところでこの日、巻き狩りの2頭とは別に、回収場所への移動中にシカを発見して車を止め、単独猟で仕留めたのが2頭。さらに「おつかれさま!」の後で、帰り道でもう1頭……ごくごく近い範囲で、全部で5頭の猟果がありました。チーム藤沼の記録としては、二ケタのシカを仕留めた日もあったそうです。これ、実はエゾシカ以上に個体密度が高いんじゃないかしら……??? でも、こんなにシカを見るようになったのは、ここ数年のことだとか。なるほど、座学だけでなくフィールドワークで学べる「狩猟学校」の学び舎としては、岩手・花巻は本当に魅力的な場所と、そして先生でした。

ホンシュウジカ北限の岩手県で奮闘する「有害鳥獣対策実施隊」の想いについても、少しお話をうかがいました。次回の記事でご紹介します。


藤沼弘文さん

ふじぬま・ひろふみ。岩手県花巻猟友会会長、花巻市有害鳥獣対策実施隊隊長、そして2013年に立ち上げた「狩猟学校」校長として、2度のオフシーズンで12名の狩猟者を誕生させた。67歳。