VOL.6-2

囮で寄せ、囮でだます──駆け引きの妙味。[京都編:2/3]

2015年1月19日

網猟の達人、宮本さんの妙技でご紹介したスズメ猟の様子、いかがでしたか? 新米ハンターや、これから狩猟者を目指す皆さんにとっては「あの無双網って、こんな風に使うんだ!」という驚きがあったのではないでしょうか……というか、実は「目指せ!狩りガール」としても、網猟の現場を見るのは初めての経験でした!

でも、動画ではスズメが来て、網を引いて、それだけで簡単に獲れているように見えるのですが、もちろんそこには、宮本さんの達人の技が隠れています。時間を巻き戻して準備から、もう少し細かく見ていきましょう。


猟に出る日の朝、荷物を積み込みます。ふだんの宮本さんはバイクで出かけるそうですが、同行させていただくということで、今日は自家用車です。

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あり

いま積み込んでいる竹の棒が、無双網の支柱なんですね?

[宮本さん]

そうや。片側にこれ2本で、その間が網や。つまりこの棒の長さが、網を立てたときの高さちゅうことやな。んで、網を長くして棒を離せば、いくらでも大きくでける、っちゅうことやけど……まあ引くのがエラいわな(笑。一気に操作できひんと獲物が逃げよるでな。

あり

あと、準備として重要なものはなんですか?

[宮本さん]

メシやね。なんせ朝から夕まで同じところに陣取って、繰り返し獲るからな。今日はそんなに山に入るわけやないけど、それでもコンビニまで歩くのは、ちと遠いわな。

あり

なるほど〜。(……あ、トイレちゃんと行っとかなきゃ……)

[宮本さん]

ほな、行こか。

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着いたのは、一面に田んぼが広がる郊外の一角。ただ、目星を付けていたというそのエリアに入ってからも、ちょこちょこと移動しては双眼鏡で周囲の木々や電線をチェックします。なるべく多くのスズメが集まっている場所に狙いを定めたいわけです。やがて、1本の木を見つけました。

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[宮本さん]

お、あの木はおるな。目の前の田んぼと、スズメが群れで往復しとるやろ。コメが落ちとるのや。

あり

ずっと見ていると、たまに近くの電線にも飛んで行って、また戻ったりしてますね。

[宮本さん]

スズメみたいな小さな鳥は、一度に大食いできひんからね。ちょこちょこと食べて、休んで、まわりを警戒してるんや。トンビやタカみたいのに追われたら一発やからね。

あり

……それにしても、こんなにスズメをしっかり観察したの、生まれて初めてです(笑。

[宮本さん]

そらそやろ、な(笑。んじゃ、あれを狙うことに決めて、網はひとつ置いて手前の田んぼの、あの「あぜ」の草の生えとるところやな。遠いと寄って来んのやけど、近すぎてもバレるでな。電線から見下ろされるような場所では、まずダメや。

あり

でも、どうやって網のところまで誘い込むんですか?

[宮本さん]

そこは、囮のスズメにいい声で歌ってもらうんや(笑。

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こちらが本日の主役、囮のスズメたち。このかごの中で、宮本さんや奥さんにエサと水をもらいながら、家の中で飼われています。

[宮本さん]

このスズメがおるで、うちは冬の間は旅行にも行けんのや(笑。なにしろ小さいでな、エサや水を忘れたら、すぐに死んでしまうでな、目が離せんのよ。それに、チュンチュンうるさくても家の中に入れとかんと、夜のうちにネコやらイタチやらに食われてもあかんやろ。

あり

実際によく鳴くスズメが囮になっているんですか?

[宮本さん]

いや、慣れれば鳴くようになるもんや。夏の間も飼っとるわけやのうて、猟期に入ったときには囮はおらんでな、最初は囮なしで苦労して獲るのよ。それを新しい囮にするわけや。で、最初はかごの中で縮こまっとるけど、まあ2週間もすれば鳴きよるな。かごの上にわらをかぶせて隠しといて、そこに獲物のスズメらが寄ってきて、その上で網が重なると、一網打尽や。囮のスズメの声がどこまで届いてるんかは、獲物のスズメらに聞いてみんとわからんけど、まあ寄ってくるんやから聞こえてるんやろな(笑。

あり

それじゃ、囮のスズメたちはずっとかごの中にいるんですね?

[宮本さん]

いや、何羽かは外に出して、姿を見せながら鳴いてもらうんや。

あり

おお、歌だけじゃなくて踊りもイケるんだ! ……でも、よく逃げませんね……。

[宮本さん]

そりゃひも付きやからな(笑。

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囮の中の数羽には、くちばしの鼻の穴に糸を通して小さな環にしてあります。アユの友釣りで付ける鼻環と同じで、猟の現場でこの環に長い糸を結び、囮のスズメをつなぐのです。

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この鼻の環が大きいとくちばしの先が入ってしまうことがあり、エサを食べたり水を飲んだりできなくて死んでしまいます。そのため、細いだけでなく短い針を使って糸を通し、ギリギリに短く結びます。宮本さんの太い指が、魔法のように動きます。網にからんだ獲物の回収から、網の修繕まで、網猟では手先の器用さも大切なようです。

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あり

このバツの字になっている棒はなんですか? 

[宮本さん]

これな、棒の先に囮のスズメを糸で付けるんや。

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[宮本さん]

で、この棒に長いひもを結んで……

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[宮本さん]

……かごの囮の鳴き声で獲物のスズメが近づいてきたところで、ひもをチョイチョイと引いてやると、棒が起きるやろ? それにつられて棒の先のスズメが跳ね上がるんで、獲物のスズメからしたら「お、仲間がおるな」とわかって寄ってくる、っちゅう仕掛けや。

あり

なるほど〜。網とは別に操作するんですね。

[宮本さん]

網のワイヤーが右手、囮のスズメは左手やな。

あり

そのほかにも囮のスズメの出番はあるんですか?

[宮本さん]

あるで。杭に結んで地面に何羽か留めといて、それは好き勝手に遊んどいてもらうんや。

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写真の右側、杭の頭が赤く塗ってあります。地面に打ち込んでおくので、目印がないと片付けが大変です(笑。囮のスズメもいっしょに網に入るわけですが、獲物と間違えて締めてしまったり、気をつけていないと踏んでしまうこともあるそうな。

[宮本さん]

で、最後の仕上げがカラスの剥製や。網からちょっと離したところにカラスを置いとくと、獲物のスズメからしたら「トンビやタカは近くにいない」という風に見えるでな。

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というわけで、脇役のカラスを置いて、仕掛けは万全です。写真の右奥、緑の草が見えているところが、網を置いた「あぜ」の部分です。あまりに近いと、獲物のスズメにとってはカラスが脅威の対象になるので近づきませんが、程よい近さにカラスがいると安心するようで、なんとも絶妙なバランスの配置。このバランスが保てる場所を見つける、というのが網猟の見切りでは重要なポイントになるようです。う〜ん、奥が深い……。

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実際にこの日も、途中で猛禽が寄ってきました。チョウゲンボウでしょうか……囮のカラスに目をつけ、降りてきて旋回しながら見ていましたが、剥製とわかると興味を失って飛び去ります。その間、当然ながらスズメは全く近づいてきません。

あり

網猟と行っても、ただ網を引くだけじゃなくて、いろいろと仕掛けがあるというか、駆け引きがあるんですね。想像していたのとは、だいぶ違いました……。

[宮本さん]

まあ『狩猟読本』だけじゃわからんでなあ。ほかにも、獲物のスズメらが休んどる場所から、網より近いところで満腹できたら、寄ってこんやろ? そんときはえさ場に「脅し」を置くんや。棒の先に白いもんを付けて、風でヒラヒラするようなやつやな。それ見ると、近づいてった獲物のスズメらが驚いて引き返しかけて、こんどはこっちの囮に気付いて寄ってくるんや。それに、ひととこにスズメの群れとる数が多すぎても、網を置く場所がない。どこに仕掛けても、全部のスズメにバレてしまうから、獲れるのは最初の1回だけで、せいぜい10羽か、20羽か……あとはもう寄ってこんのや。そんなときは猟をせんで見送るのよ。もったいないけどな。

あり

いろいろあるんですね〜! すごく勉強になりました!

[宮本さん]

勉強だけやのうて、自分でやらんとわからんけどな。いつでも教えたるから、また来てや。

あり

はい、ありがとうございます!


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さて、今回の達人の宮本さんは、実は『ぼくは猟師になった』の千松さんが紹介してくれた師匠です。この日も子どもたちといっしょに様子を見に寄ってくれたのですが……

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……合流したとたん、当然のように獲物の回収チームが交代!ということになって、走り回っていただいちゃいました。そのほかにも獲物のスズメを追い立てにいったり、すっかりお手伝いモードで、ありがとうございました。それにしても、こんなに小さなころから狩猟の現場で遊びながら育つなんて、将来が楽しみ!


以上、ちょっと細かくスズメ猟の全体像を見ていきました。で、その獲ったスズメはどうするんでしょう……? 関西の皆さんはもうおわかりだと思いますが、伝統的なスズメ猟が残されている事情については(とはいっても京都では、いまや宮本さんおひとりくらいなのですが)次回の記事でお伝えします。お稲荷さん、行きますよ!


宮本宗雄さん

みやもと・むねお。日本で唯一、猟法別支部である「京都府猟友会甲種支部」の支部長として、会員約30名の網わな猟を指導。自身は少年期から、父親ゆずりの鳥猟を続ける72歳。

千松信也さん

せんまつ・しんや。2008年に話題となった『ぼくは猟師になった』の著者。2001年に甲種(現わな・網)狩猟免許を取得して猟師となった、家族での狩猟採集生活を目指す40歳。