VOL.6-1

日本の伝統的狩猟法、網猟を守る。[京都編:1/3]

2015年1月13日

さて、2015年の最初のリポートは、冬の京都に行ってきました。それも網猟、獲物はスズメ! これまでの各地の達人の猟場とは趣も異なり、稲刈りあとの田んぼで、囮のスズメやカラスを使って、まるで鮎の友釣り……なんて聞いてもイメージがわかないと思いますが、無双網の妙技を見せていただきました。

達人は、宮本宗雄さん。皆さんもご存知の『ぼくは猟師になった』の著者、千松信也さんの師匠です。今回の狩りガールは、網猟免許を所持するりこちゃんが訪ねました。


冬の京都は寒さ厳しく、ことに開けた場所では寒風が吹き抜けていきますが、稲刈りが終わって乾いた田んぼは、落ち穂に集まる野鳥たちにとっては大切な冬支度の場。この時期にたっぷり食べて、小さな体に脂をつけるわけです。そんな野鳥を獲る網猟の達人が、宮本宗雄さん。今日はスズメを狙う無双網の技を見せていただきました。

あり

今日はよろしくお願いいたします! わたし、網猟免許だけ取っているんですが、まだペーパー猟師で実猟の機会がないので、実際の網猟の様子はわからないことばかりですが……いろいろと教えてください。

[宮本さん]

はい、よくいらっしゃったねえ。網いうても『狩猟読本』に出てるのや、狩猟試験の実技で見るのとは、本物はだいぶ違うけどな。試験の網は、小さいやろ? そら試験の会場が小さいからしょうがないけど、実際には広〜いところで使うもんやさかいに、大きいのは100メートルとかあってな……。

あり

100メートル!

[宮本さん]

ま、今日はスズメの無双網やからそないに大きいもんやないけど、とにかく見てみいひんことには、なんもわからんわなあ(笑。ほな、いきまひょか。

あり

……はい! とにかくお願いします(笑。

かなりの量の多い道具を積み込んで、クルマを走らせること小一時間。一面に広がる田んぼの景色の中で、宮本さんが今日のポイントを決めました。

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[宮本さん]

よっしゃ、今日はここでやってみましょ。まあ獲れるかどうかわからんけどな。

あり

スズメが集まる場所って、その日によって違うものなんですか?

[宮本さん]

最近は住宅の建て方も変わって、軒下のある家とかも少のうなったからな。スズメの行動範囲も広うなっとるんよ。それで何キロかの半径から集まってきて、こういう枯れた田んぼで落ち穂を拾って食べるんやけど、そもそも体が小さいから、いちどに多くは食べられへんやろ? だから近くの木や電線に止まって、まわりの様子を警戒しながら、食べては休み、食べては休み、と繰り返すんや。そこを寄せて、パッと獲るんや。

あり

なるほど〜。それにしても、わりと大荷物なんですね。

[宮本さん]

ふだんはこれ、全部バイクに積み込んで猟に出るんやけどな。あちこち見て回って猟場を決めるには、小回りが利いたほうがええでな。それで、京都府の全域に行っとるなあ。カモなんかだと餌付けの仕込みをしてから獲ることもあるけど、それも水辺に限ったことばかりではなくてな、こういう田んぼの真ん中でもちゃんと獲れるんよ、カモが。

あり

???

[宮本さん]

そこが技なんやけどな(笑。ま、今日はスズメや。ほな、網を持ってな。

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今日の道具は無双網。これを2枚で使う「両無双」を見せていただきます。スズメ用で糸は細く、目も小さくなっていますが、とはいえ長さもあり、引き糸にはワイヤーを使っているので、全体ではなかなかの重さです。

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左手に持っているのがワイヤーの支柱、右手には無双網の支柱です。網の柱の先に短く垂れているのが、地面に固定する杭の部分。網が自由に動くようになっているわけです。

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仕掛ける場所は、両側からの網が程よく重なるあぜの部分を選びました。奥に2本の支柱を立て、それぞれが左右の網のワイヤーを支えます。

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そこから手前に2枚の網を左右に広げ、この手前には、さらに2本の支柱を打って、それぞれのワイヤーを支えます。左右から1本にまとめられたワイヤーを引くと、両側の網の柱が立ち上がり、内側に倒れて重なり合って一網打尽! というわけです……が、狩猟読本の図解や試験の実技で見て、触れたものとは、だいぶ様相が違います。

あり

……うーん……やっぱりホンモノは違うんですね。こんなに大きくて、それも重いし。この網を一気に引いて動かさないと、鳥は逃げちゃうんですよね?

[宮本さん]

そりゃそうやろ(笑。だからワイヤーの先には金属の輪をつけて、それを持って全身でグッと引くんや。輪がないと、手が切れるでな。……よし、でけた。じゃ、あっちで待つよ。

……というわけで、待機です。近くの木や電線にスズメたちが止まっているのを見て場所を決めたわけですが、そこから一直線に飛んでくるわけではありません。スズメが寄ってくるか、降りてくるかどうかを見きわめるには、あちらこちらの空をグルグルを見回さないといけません。

あり

あ、来た……と思ったけど、なかなか降りて来ないもんですね。

[宮本さん]

そら簡単なもんやないわ……といってる間に、あの群れはこっちに回ってくるな……そら、降りてくるわ。降りたら……引くで……そりゃっ!

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あり

獲れた! ……と見えたんですけど、獲れてました?

[宮本さん]

ほら、見てないで行くで。網を引いたらすぐに行って、獲物を拾って、また網を仕掛け直して、それを繰り返すんが無双網や。まあ1日中これで行ったり来たりを走ってる感じで、スズメ猟いうんは、なんともせわしない猟なんやけどな(笑。

あり

(……知らなかった……やっぱり現実は、違うなあ……)

たしかに『狩猟読本』などの図解には書いてないのですが、1回の網の操作で数匹の獲物が入り、夕暮れになって獲物が住処に帰るまで何度も繰り返すのがスズメ猟です。いまでは専門に使う人も減り、目にする機会の少なくなった伝統的な猟法である「無双網」の実猟、どんな感じかおわかりいただけましたでしょうか……え? 写真と文章だけじゃよくわからない? ま、そうですよね(笑。ということで、動画をまとめてみましたので、目を凝らしてご覧ください。

飛んできたスズメが降りるかどうかは、本当に一瞬の勝負です。その勝負をモノにするための駆け引きについて、次回は達人の技を詳しく見てみましょう。お楽しみに!


宮本宗雄さん

みやもと・むねお。日本で唯一、猟法別支部である「京都府猟友会甲種支部」の支部長として、会員約30名の網わな猟を指導。自身は少年期から、父親ゆずりの鳥猟を続ける72歳。