VOL.3-2

山の守り主──狩猟者と林業者と、地域の人々。徳島編[2/2]

2014年11月17日

徳島の2日目は、紅葉の山へ! ……いえいえ、別に観光気分を満喫しに来たのではなく(とはいえ紅葉を愛でるには最高の季節と場所であったのは事実ですが!)ともに山を守ってきた林業者と狩猟者の関係について、ちょっと思うところもあったからです。

徳島県の東みよし町は、2006年に旧三好郡の三好町(みよしちょう)と三加茂町(みかもちょう)が合併した新しい町ですが、清らかに流れる吉野川を中心とした山あいには、1万年を超える人々の暮らしが続いています。徳島県の西部、つまり四国の山間部に位置しながらも人口減少は緩やかで、現在は1万5000人ほど。広域の商圏としても活気を感じさせるこの町には、豊かな自然との共生の中で、静かな時間が流れています。

そしてこの地域、古くからの基幹産業としては農業に加えて、林業に支えられたエリアです。全国的には苦しい話題を耳にすることの多い林業業界の中で、下刈りや間伐のコストを抱えながらもそれなりの売上げを維持できているという、いわば「踏みとどまっている」地域として知られています。

近年は200億円を超える状況が続いている野生鳥獣被害では、狩猟者の減少傾向とともに林業の衰退で山に手が入らなくなったことも大きく影響しているわけですが、ここ東みよし町では、ちょっと事情が違うのかもしれません。そんなお話を聞きに、山に出かけてみることにしました。


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あり

おはようございます! それにしてもすごいモヤですね。

[木下さん]

このあたりは周囲を山に囲まれているから、朝はこんな感じが多いんよ。でも、今日はきれいに晴れるよ! 朝ごはん食べたら、山に行ってみようかね。

あり

木下さんは三好東部森林組合の組合長さんもされているんですよね。林業の現場は、長くかかわってらしたんですか?

[木下さん]

いやいや、勤めとったから林業で食っていたというわけでもないんよ。でもまあ、このあたりは農業は自分用で、林業が木を切り出して他所に送って……という感じではあったんよな。田んぼをやらん土地柄やけど、尾根筋を越えていけば米どころにも出られるんで、種類の豊富な野菜が行って、米になって帰ってくるんよね。それに、昔はよく馬を飼っていて、ふだんは斜面の畑を季節ごとに耕してるんだけど、稲作で馬が欲しい時期になると、米どころに馬を貸しに行くんよ。それで馬は痩せて帰ってくるんやけどね。

あり

なるほど〜。ほかの地域との交流が川沿いではなく尾根伝い、というのは面白いですね。

[木下さん]

四国でも香川とかにいけば土地が平らになるんやけど、高松空港から来る道でも、徳島に入ると急に景色が変わったでしょ? 山に囲まれとると日当りが貴重なんで、中腹よりも上の方がいい土地になるんよ。それで、川から離れた標高の高いところに集落があるんやね。あれもこのへん独特の住まい方で、まあ「分家は本家よりも高いところに家を建てたらいかん」みたいな(笑。じゃ、出かけるかね。


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旧三好郡は、いわゆる「平成の大合併」の時期に東みよし町と三好市になりましたが、林業では西部と東部に分かれました。木下さんの三好東部森林組合では、経営面積が約1万4000ヘクタール。東京ドームが3034個という広大な規模を、30人の現業職員で管理しています。人工林のスギやヒノキに加えてマツの多い山ですが、マツクイムシの生息限界とされる標高500メートル以下では松枯れ病の被害を防ぐことは難しく、残念ながらマツタケの収穫量はずいぶん減ってしまったそうです。それにしても、標高1000メートルを超えて上っても、林道の整備だけでなく、木々の枝打ちなどに人の手がちゃんと入っていることを感じさせる風景が続きます。モモさん、実はふだんのお仕事が木に関わり深く、元気な山に興味津々です。

あり

みよしの林業、まだまだ大丈夫ですね!

[木下さん]

いやあ、昔と比べたらだいぶ違うけど、それでも新しい機械を入れたりしてね。

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あり

おおお〜! あっという間に枝を落として丸太になってく〜!

[木下さん]

これはプロセッサ。木を切って、枝を落として、規定の寸法にそろえて切ってくれるんよ。

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[木下さん]

で、こっちがフォワーダ。プロセッサが尺をそろえて切ったら、これに積み込んで山から下ろすんやけど、クローラなんで軟弱な不整地でも走れるんよ。

[編注]クローラとは無限軌道、つまり戦車やブルドーザでも使われる走行装置のこと。アメリカのキャタピラー社によって世界的に普及したため、一般に「キャタピラ」と呼ばれることが多い。
あり

かっこいい! でもこれ、これまでの林業の木こりっぽいイメージとは、だいぶ違いますね。誰でも使える、というか……。

[木下さん]

もちろん誰でも操作を覚えられるし、チェーンソーを使ったり、木の上に上るんと比べたら、まあ危険は少ないわな。実際にこの手の林業機械を導入して、それで女の人が林業に入って来られるようになった山もある。中には男よりもエラく上手に使える女性もいるらしくて……(笑。

あり

狩猟の世界でも若い人を増やすのが課題で、わたしたちのように新たに狩猟者になる女性が注目されていることもあるんですが、林業の世界でも似たようなことが起きている……ということなんでしょうか?

[木下さん]

これまでは山の仕事は力が必要で、そのうえ危なくて……だったんやけど、機械を入れるとそこが変わって、女性でも参入しやすくはなるね。もちろん女性に限らず、若い人たちにとってはこれまでの林業とは違ったイメージに見えることもあるだろうから、それで興味を持つ人が増える、ってのもあるかもなあ。

あり

……それ、狩猟の世界にも通じるお話ですね……。

[木下さん]

まあこの辺では、昔から林業の人が山を守ってきたわけで、獣との付き合いも長いわけよ。わしなんかは獣害の問題であとから狩猟するようになったんやけど、もともとは林業しながら趣味で狩猟も、という人が多いやな……んで、こちらが林業の仲間の、機械を動かして見せてくれた源さん(左)と、三好市の井川地区猟友会の会長さんでもある大下さん(右)や。ま、わしよりもベテランの狩猟者やね。

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[大下さん]

はい、こんにちは。

あり

大下さんは長く狩猟をされてるんですか?

[大下さん]

昭和50年(1975年)からやから、40年に近いわな。ふだんは巻き狩りで、イヌも使うんやけど、それでも昔に比べると猟をする人もだいぶ減ったでなあ。ま、それでもボチボチ狩っとるよ。

あり

実は先ほど、山を上がってくる途中で、林道の脇に2頭のシカが……。

[大下さん]

ああ、あれは柵の中にいたんで、しかたなく撃ったヤツやね。この山の上の方でフェンスをしてあるのは植林した場所で、その囲いの中にシカが入り込むと、植えた若い木を食っちまうでな。林業のもんとしては、駆除せざるを得んのよ。で、手の空いたところで埋めてやろうと林道の脇まで出してあったんやけど、まあ山の仕事の合間にそういうこともあるわけで、狩りの準備できたわけじゃないからすぐに山を下ろすこともできんし、あっという間にガスでパンパンになるから食ってやるわけにもいかんし、仕方ないわなあ。

[編注]動物が死ぬと、胃の内容物が発酵してふくらむ。このガスは、肉の臭みの原因になる。
あり

やっぱり人の暮らしと獣の距離が、近いんですね。

[大下さん]

林業のもんは昔から狩りもしとったけど、そもそも林業のもんが減っとるでな。ほれ、あの銃砲店も看板を……

[木下さん]

お、あの店は看板を下げたんか。まだ在庫の弾は売ってくれるやろうけど、新しい客も増えとらんで、しょうがないわ。

あり

昨日からこの一帯を見せて回っていただいていて、里と山がすごく近いと感じているんですが、それでも新たに狩猟をはじめる人は、なかなかいないんですね……。地域の人にとって、狩猟者との関係というか、理解の度合いってどうなんですか?

[木下さん]

まあ、だいたいが顔見知りな田舎やけん、知らん仲ではないわけやけど……。実はわしが狩猟免許をとるずっと前の若いころは、山の仕事で登っとって、誰かが狩りをしてて銃声が聞こえたりすると、ちょっと気になったりしたこともあったんよ。でもまあ、自分が狩猟をするようになったら狩りの事情もわかってきて、気にならんようになったわけで、知らんもんは不安になる、ちゅうことやね。コミュニケーションが大事や。

[大下さん]

そこらがお互いにわかってくればいいわけで、そういう意味では皆がよう知り合うとるこのへんは、恵まれとるわな。最近はキノコや山菜で山に入る人らも、目立つ色のものを着てる人が増えてきたんよ。いいことやと思うわ。

あり

林業も狩猟も安全第一ですものね。


山のふもとで、大下さんの狩猟小屋……というか、山男のオモチャがいっぱいの秘密基地に、ちょっとおじゃましてきました。

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あり

うわ、かわいい! このワンちゃん、猟犬の見習いなんですか?

[大下さん]

いや、猟のイヌらは別におるで、これは狩りに行った帰り道で、ひとりで山にいたんや(笑。道の真ん中でわしらを待っててな。それで着いてきよった。

[木下さん]

そいでも、この子はええ骨格をしとるやろ。強いイヌになるかもしれんなあ。

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あり

こっちにはチェーンソーが……なんだか、ほかにも面白いものがいっぱいで……お酒の空き瓶もいっぱいです(笑。

[大下さん]

狩りのあとはここで皆で食べたりもするんよ。それに、必要な道具も自分らで作るでな。

[木下さん]

こっちにはシカの頭も埋めとるで……

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あり

あ、埋まってる! これ、頭の骨を飾るんですね。

[大下さん]

埋めとくときれいに骨だけになる……はずなんやけど、掘り出してみないと出来はわからん(笑。虫と、微生物と、まあ自然が相手やからね。

あり

狩猟者の皆さんって、本当に遊びかたも上手ですよね〜。ありがとうございました!


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山から帰る途中で、なんとカモシカに! シカと違って、カモシカたちは人に出くわしてもすぐ逃げず、こちらをじっと見ていることが多いのだとか。この日も、子カモシカが驚いて背後に隠れようとするのを守るように、親カモシカはこちらを見つめ、そして2頭で山に帰っていきました。


そして民宿「うり坊」へ戻る前の最後の寄り道は、木下さんご自慢のツリーハウス! ……とはいってもまだ屋根のない「展望台」の状態ですが、すぐ近くの畑の上に、すてきな遊び場を作っている最中です。

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あり

いやあ……すごい景色ですねえ……。それに、お日さまもいいけど、風も最高!

[木下さん]

民宿に泊まりにきた子たちと、ここで遊ぶんよ。んで、屋根をかけたら夏場は寝袋で寝てもいいしね。いまは農業体験の民宿で、中学や高校の生徒さんらもよく来てくれるんやけど、そのうち「くくりわな見回りツアー」とか、そこからの「解体体験の宿」とか、もっともっとやりたいねえ……。楽しいもんは、なんでも自分で作れば、もっと楽しくなるんやねえ(笑。

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木下正雄さん

きのした・まさお。豊かな山の自然に抱かれて、自前の解体設備を持つ体験民宿「うり坊」主人。東みよし町三好地区猟友会副会長。三好東部森林組合組合長。66歳ながら、心は少年。

大下一郎さん

おおした・いちろう。おとなり三好市の井川地区猟友会会長だが、境界をまたいで広域で活動する三好東部森林組合での林業者仲間。同世代の66歳だが、狩猟では先輩のベテラン。