VOL.3-1

山あいの自然の豊かさを、美味しく獲ることで伝えたい。徳島編[1/2]

2014年11月10日

長年にわたる狩猟の経験から、ベテランのさまざまな「知」と「技」のお話をうかがう〈教えて!狩猟の達人〉ですが、今回はちょっと趣を変えて、四国は徳島にやってきました。

徳島県の西側に位置する東みよし町は、北は香川県に接し、空路でのアクセスは徳島空港よりも高松空港が便利という場所。ここで民宿「うり坊」を営む木下正雄さんは、三好東部森林組合の組合長さん。お勤めのかたわらで、長年ずっと林業にも関わってきた山のベテランでしたが、狩猟の道に足を踏み入れたのはここ十数年のこと。必要に迫られての狩猟免許から、やがて野生肉のおいしい体験民宿の主となり、自前の解体設備を作って……というストーリーです。

民宿の主としての「肉を供するための狩猟」だけでなく、林業者としての「山を守るための狩猟」という視点でも興味はつきないのですが、まずはグルメリポートから! 今回の旅は、シーズン1にも登場した狩りガールの先輩、モモさんと出かけてきました。


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[木下さん]

遠いとこまでよくいらっしゃったねえ。まあ、お昼にしましょう(笑。ソバですけどね、こんなの見たことないでしょ。

ありよろしくお願いします! それにしても料理の種類がたくさんで、すごいお昼ごはんですね。あれ? このおソバ、なにが入ってるんですか?

[木下さん]

大根といっしょに食べるんが、このへんのソバなんですよ。まあ米を作らんで野菜ばかりの土地なんで、昔の人は、少しかさ増しよったんかなあ(笑。肉はもちろんイノシシです。

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料理上手な奥さまが用意してくれたのは、温かいソバ。大根の千切りを湯がいて合わせるのが、このあたりでの伝統的な食べかただそうです。山あいの暮らしでは、耕せる土地の面積が貴重です。棚田にするのでは効率が悪いため、斜面をそのまま畑にしてきたことで、米食ではなく穀物と野菜の食文化が発達して、地場野菜の種類が豊富になりました。

そして、ここ民宿「うり坊」ではもうひとつ、主の獲った野生肉としてのイノシシ料理が名物です。徳島の山間部はもともとシカの少ない地域で、古くからイノシシを食べていました。古くはウサギ猟もあったようですが、いまはそれほど盛んではなく、シカについては近年の増加傾向で、獲物としては増えているものの、あまり積極的に食べる土地柄ではない……と、食いしん坊の狩りガールから見れば、ちょっともったいない話です。

[木下さん]

刺身のこんにゃくも、イモからうちで作ってます。こっちはサツマイモをイノシシの肉で挟んで揚げたヤツ。あと、この一味ね。赤唐辛子から作った自家製なんだけど、すっごく辛いから気をつけてな。

あり今日のお料理、どれも自前の畑から穫れたものなんですね。なんて贅沢! それに、もちろんイノシシも自分で獲って! ……でも、若いころから狩猟をされていたわけではないとお聞きしたんですが、なにがきっかけだったんですか?

[木下さん]

わな猟の免許を取って、16~7年になるかなあ。そのときはまだ勤めをしとったんやけど、イノシシの被害が出てきてね。それで……ま、にわか猟師なんよ(笑。被害が出はじめたら、誰かが獲らないかん。それで「若い人でなんとか……」ということでな。

ありまだお勤めされていたときのことなんですね。それはたいへんでした……よね?

[木下さん]

勤めをしとったら、まあふつうは無理やと思う。わなの見回りとか、そうそう行けんしね。見回りは日に一回、朝方に行くけどな、それでかかってたら「仕事やけ、ちょっと待っとけ」ちゅうわけにもいかんからなあ(笑。それに、わしが猟をはじめたとき、教えてくれる人もおらんで、どないしたらええんだろうと思ってな。

ありそれは……ホントにたいへんだ。わたしは初心者としていろいろ教えてもらえてるのですが、このあたりでは猟友会に若い人が入ってくるとか、あるんですか?

[木下さん]

若い人が入ってくることは……ないねえ。このへんの猟友会は合併前の旧の町村単位で、活動は従来からあるそれぞれの支部やな。平均年齢で、60代とかなあ……事務的には「東みよし町猟友会」というのでまとめとるけども……それにしても全部で22~3人やな。鉄砲で12~3人、わなで10人くらい。今年はわなの免許を取った人はおらんかったし、鉄砲も、わしが更新したんで3年は経ったんやけど、それ以降に銃を取った人はおらんなあ。昔から猟をしとる人はおるんやけど、このごろで「猟をはじめよか」という人は、なかなかおらんのよ。だから定年退職したらすぐに仲間に入ってもらって、有害鳥獣対策やってもらうとか、な。

ありそんな状況で、獣害で困って狩猟者になって、工夫してこられたんですね。

[木下さん]

ま、まずはヤリをこしらえたんな。ヤリで刺すったってイノシシは動き回ってるし、カラダは固いし、ほんまに命がけや。山の斜面で、木もいっぱいあるし、足を滑らしたらずずっと行ってしまう……。わなのワイヤーの長さで、イノシシがだいたいそこまで来るというのがわかるやね。それでオノの頭で叩くんやけど、距離をはかって「ここまで来るな」と……こっちも届かんねきに、来させにゃしょうない。でもイノシシがグルグル逃げ回るんよ。しくじったら、もう寄って来ん。それでもやらにゃあかん。もう格闘よ。うまいこといったら、パタンとひっくり返るんよ。それで、こんどはヤリを持ってな、心臓を刺すんや。

あり銃は止め刺しには使わないんですか?

[木下さん]

鉄砲はサルでね。4~5年前からサルも出てきて、イノシシの方は獲ったり、追っ払ったり、金網したりで土地を守ってきたんやけど、こんどはサルで、柵の上からや。で、こりゃしゃあない、鉄砲も取るか、とな。イヌも「モンキードッグ」ってのがおるんで、それも飼いだしてな……。

ありじゃあ食べる獲物はわなとヤリで勝負ということで、それで民宿をはじめられたんですね。

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[木下さん]

このあたりはね、本当に自然がいいんですよ。高松空港から1時間ちょっと走れば、こんな山の景色になる。それをぜひ、体験してほしくてねえ。で、せっかくなら美味しく食べてもらいたいんで、自前の解体設備も作って許可を取ったんです。山でイノシシを獲って、仕留めて、下ろしてきて、ここでさばいて、全部を自分でやってます。


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そんなお話をうかがいながら、たっぷりのお昼ごはんも美味しくペロリと。続いて狩り場を見せていただく予定ですが、実はこの日、徳島大学の女子大生も取材に参加しました。フィールドワークとして狩猟者へのインタビューを、ということですが、なんと3年生の生田千尋さんは、すでにわな猟の免許を取得! 未来の狩りガール、有力候補の登場です。1年生のおふたり、森千秋さんと高橋優子さんはまだ未成年なので、狩猟免許は成人してからになりますが、どうするのかなあ?

[生田さん]

よろしくお願いします! まずこの地域の狩猟者さんの実態から、猟友会の……

あり(……以降、大学でのリポートの内容になると思うので、しばし遠慮を。学生チームは、下の写真で左から高橋さん、森さん、生田さんです。それにしても木下さん、楽しそう!)

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[生田さん]

……なるほど〜。いろいろとお話しいただいて、ありがとうございました。じゃあ次はわなの現場、連れてってください!


というわけで、狩りガールズ(!)は山に向かいます。とはいっても木下さんの狩り場は、ほんの裏山。とにかく美味しい料理に、ということで、かかった獲物をどれだけ短時間に持って帰れるかが勝負だそうです。

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[木下さん]

ここはよくかかる場所なんだけど、いまはかけてない。まだ時期として、イノシシが美味しくなってないからね。わなの場所も、ただかかればいいんじゃなく、こういう風に獲物を道に下ろしやすい場所でないと、時間がかかって美味しくなくなっちゃうからねえ。右手に、縦に見えてるのが獣道なんで、そこは通らずに左手から上がってください。

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あり林道からちょっと上がっただけで、すごい斜面ですね。本当に山あいの暮らし、という感じです。ここ、踏んじゃダメなんですね……。

[木下さん]

イノシシは鼻がいいからね。それで、わしも靴だけはいつも同じにして、慣れさせた臭いが変わらんようにしてな。見回りも同じ靴でね。んで、場所を決めたらこうやって……。

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[木下さん]

……これでセット完了な。これ、どういう風にかかるか、見たことある?

あり見せてください!

[木下さん]

ここをイノシシが踏むやろ。すると、な……あとは格闘や(笑。

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[ガールズ]

……おおお〜。

[木下さん]

じゃ、次は沼田場と、箱わなのとこな。はい、クルマ乗って!

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[木下さん]

ちょっと走ると、もうこんな森になるでな。この沼田場は大きいほうやと思う。で、ここを通ったイノシシがあっちへ行って……

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[木下さん]

……この箱わなに入ると簡単なんだが、まあ、なかなかな(笑。さ、イノシシが獲れた、というつもりになって、急いでうちに帰るよ〜。

[ガールズ]

は〜い!


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ありうわ! スゴいですねこの根っこ!

[木下さん]

これケヤキの巨木の根でな、うちの看板や。150年くらいかなあ。うちの一族のことも、全部を見とるでなあ……。

あり本当に山と暮らしが近いんだなあ……。で、獲物に止め刺しをしたら、できるだけ短い時間で運んできて、解体するわけですね。その解体設備も自分で用意しちゃうって、すごいですね。

[木下さん]

ないもんは、なんでも自分で作るの。止め刺しに使うヤリも、刃先は……そうとうに強いんでないと役に立たんから、作業用のクルマの板バネからグラインダーで削りだしたんよ。で、仕留めたイノシシを山から急いで下ろしてきて……中に入れる前にここでよーく洗ってな……

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[木下さん]

中に入れたら、あとは吊るして解体して、美味しい肉になるわけやな。

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ありへえ〜、内臓摘出も剝皮も吊るしたままでするんですか?

[木下さん]

台の上でひっくり返すより衛生的かと思ってな……ま、そのやり方しかせんちゅうこともあるんやけど。で、刃物がこれ。曲がったので最初に腹を切って、中を出したら皮をむくのは真ん中のヤツ。そのあとバラすのは骨すき包丁で……

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ありこれ、握るとこ……柄がないですよね?

[木下さん]

それも衛生面やね。鋼の板だけのほうが、やっぱり安心なんよ。

ありなるほど、徹底されてますね〜! さすが民宿のお父さんですね。

[木下さん]

ま、それが美味いかどうかは、食べてみてくださいよ。今夜はたくさん用意してあるからね!


というわけで、お昼をあんなにいただいたのに、山を歩いてしっかりおなかをすかせて、夕食の時間になったのですが……それが冒頭の写真です。

ありこれ、なんでこんなにイノシシがあるんですか!

[木下さん]

いやあ、新しいスライサーが届いたんでね、その使いはじめでシュッ、シュッと……(笑。ま、食べられるでしょ、シャブシャブだから。野菜もタレも、全部がうちの自家製だからね。じゃ、いただきま〜す!

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……残さずしっかり(!)いただいて、ふぅ……山あいの夜は静かです。明日はまた、別の山に行ってみます。

ではでは次回まで、おやすみなさい……。


木下正雄さん

きのした・まさお。豊かな山の自然に抱かれて、自前の解体設備を持つ体験民宿「うり坊」主人。東みよし町三好地区猟友会副会長。三好東部森林組合組合長。66歳ながら、心は少年。