VOL.2-2

ひとつずつ、不安を消していくこと……それではじめて「銃」が信頼できる。[長野編:2/3]

2014年10月27日

さて、いよいよ射台にやってきました。前方の斜面の下からクレーという小さな板が飛び出して、それを撃つわけです。天気が悪くて景色は真っ白なので、今日はオレンジ色のクレーを出してもらいました。ありちゃん、当たるのかなあ……。


KG2_02_2_1_8362

あり

わたし、まだ所持許可を取ったばかりなんですが、やっぱりシカを獲りたくて、ふだんはスラッグ弾で練習をしてるんです。散弾は久しぶりですね〜。竹入さんは、競技射撃ではなく狩猟のための射撃練習って、なにか特別になさってるんですか?

[編注]猟銃の所持許可を取得して初めに持つ猟銃は通常、散弾銃である。散弾銃は実包(シェル)の中に入った弾を発射する機構をもつ銃であるが、その弾の大きさや数量などは、狩猟対象鳥獣や射程距離、射撃用か狩猟用かなど、目的に応じてなどによって適切なものを選ぶことができる。

シカやイノシシなどの大型哺乳類には「スラッグ弾」という、実包に一つの弾しか入っていないタイプが威力も強く、遠い距離からでも狙えて有効だが、クレー射撃では「散弾」という、実包に300~600個程度の小さな弾を入れたものが一般的。

ちなみに、ありちゃんの北海道での実猟デビュー時は、鉛害を防ぐため、鉛製ではなくタングステン製のスラッグ弾を使用している。

KG2_02_2_2_8334

[竹入さん]

狩猟のためということではなく、銃を扱うということは練習をちゃんとしないといけないわけだから……まあ私は撃つことが好きなんで、的に当てるよりも引き金を引きたい、という感じもあるんだけどね(笑。

あり

わたしは、まず「シカが美味しい! もっと食べたい! 自分で獲りたい!」という思いが入り口だったので、銃はそのための道具として考えていますね。だから、銃そのものに対する強い興味があったわけではなくて、そのせいなのか……定期的に触っていないと、だんだん銃が怖くなってくるんです。そういう感覚、かえって事故につながったりするのかな、と。

[竹入さん]

そうだね。とにかく、何かのときに出てくる不安を、ひとつずつ消していくことが、いちばん大切なんですよ。最初はメインテナンスで、銃が壊れないこととか、自分で責任を持って扱う必要があります。そのあとで、銃の扱いについての不安を消していくこと。当たりにくいとか、扱いがスムーズでないとか……。まずはできることろから消していかないと、どんどん難しくなっていくわけですよ。そんな不安が、銃を撃つ場面になってもつきまとっているようでは、成功する確率はかなり低くなる。だから、銃が故障していないこと、操作にムダがないこと、機構や性質を熟知していること……間違いなく、この銃に合った撃ち方ができる、と思えるようになって、そこの不安がなくなれば、猟の現場で獲物が現れたときに、撃つことだけを考えればいい。でも、もし「撃っても弾が出なかったら……」なんて不安を抱えていると、結果はよくならないね。

あり

……なるほど……

[竹入さん]

以前にね、イノシシを獲りにいったんだよ。巻き狩りで、私は山の中間の、わりと足場の危険な場所に立っていて、そのときの私のライフルがヘッケラー&コッホで、薬室に1発、弾倉に3発の、合計4発しか撃てない銃でね。で、どうせイノシシがたくさん出てくるわけでもないし……なんて思って、その4発しか持っていかなかったんですよ。ま、私は自信の過剰なタイプだから(笑)4発あればイノシシ4頭はイケるから、と思ってたんだねえ。で、追い出したイノシシを撃って、予備の弾があれば追加で装填しておくところなんだけど、命中したイノシシが転がって落ちていって……と思ったら、すぐ近くにクマが3頭もいて、銃声に怒って迫ってきたんだよ。

あり

えええええ〜っ!

[竹入さん]

仕方なく残りの3発で3頭を撃って、当たったかどうか確認もできずに斜面に飛んで、すべるように下まで降りて、無線で「こっち入ってきちゃいけんぞ! クマ出たぞ!」とね。そのあとの見回りで「仕留めたイノシシも落ちてるけど、クマも3頭、転がってるぞ」となって、まあそれで終わったんだけど……もし、予備の弾という準備があって、もし、撃ったあとでちゃんと1発の再装填をしていれば……。

たまたま当たったからよかったんだけど、やはり狩猟は「命を取る」ということであって、それにはこちらの命もかかっていて、だから周到な計画で、絶対に不安を残さないことが必要なんです。

あり

………………。

[竹入さん]

そんな不安をしっかりと消していけば、狩猟の現場で「獲る」ということに関しては、それだけでもかなり確率が上がる、ということだね。じゃ、撃ってみてください。後ろから見てるからね。

あり

よろしくお願いします!

KG2_02_2_3_8461

久しぶりの散弾射撃ということでしたが、何発か撃ったら、それでもう無心になれたようでした。ありちゃん、すごい集中力です。下の写真は発砲のシークエンスで、左から、構えて、撃って、排莢しています。頭のすぐ右に飛び出しているのが空になった散弾の薬莢で、発砲の直後なので、反動で上半身が後ろに動いているのがわかります。このあと、さらに銃身が上に跳ね上がります。竹入さんはその後ろから、少しずつ目線の合わせかたを変えながら、じっくりと見ています。

KG2_02_2_4_8448

[竹入さん]

ちょっと、スタンスを直そうか。まず標的の方向に正対したら、軸になる左足を少しひねって、右足をスッと後ろに引く……。

KG2_02_2_5_8484

[竹入さん]

それから、狙いのつけ方だね。まず矢先を上のほうに向けて、照門と照星と目線をぴったり合わせる!

KG2_02_2_6_A_8519

[竹入さん]

ぴったり合ったら、その関係がくずれないように、頭の位置も固定して、そのまま頭から動かして……。

KG2_02_2_6_B_8520

[竹入さん]

標的のある方向まで、スーッと下げてくる。で、そのまま狙って、そのまま撃つ! そしたら、当たるよ。

KG2_02_2_6_C_8522

[竹入さん]

とにかくこの動作をおぼえて、いい狙い方で、いい撃ち方で、それがいつでもできるようにすること。当たったか当たらなかったかよりも、正しい動作がいつも同じようにできていること。正しく整備と準備ができていて、そのうえで自分の銃の扱い方は間違いないと断言できて、それではじめて「撃つこと」に集中できる。銃が信頼できるようにならないと、ね。

あり

はい! よくわかりました

[竹入さん]

じゃあ、もう少し撃ってみましょうか。

KG2_02_2_7_8514

ありちゃん、1発ずつていねいに、動作を確認しながら無言で撃ち続けます……が、さきほど購入した散弾は、25発入りを2箱。そろそろ疲れてきたようです……・

あり

(……腕がプルプルしてきちゃった……筋トレ、必要だなあ……)

[竹入さん]

ちょっと、上がらなくなってきたね。あと何発あるの?

あり

このポケットの分で終わりです。最後、がんばります!


……ということで、50発の射撃練習が終了しました。足下に散らばった空薬莢を集めて、置いてあるカゴに入れていきます。

KG2_02_2_8_8535

[竹入さん]

はい、おつかれさま! 撃ち方、悪くないね。いい撃ち方を身につけて、それで当たるようにならないと意味がないんだから、射撃練習のたびに「当たった」とか「当たらなかった」とかでやり方を変えるんじゃなく、続けることだね。

あり

はい、ありがとうございました! ……あの、そのうちまた、射撃練習におじゃましてもいいですか?

[竹入さん]

もちろん! ぜひまた、こんどは天気のいい日にね(笑。


ありちゃんの射撃練習、具体的なアドバイスもたくさんいただけたようですが、ご参考になりましたでしょうか? え、写真と文章だけでは、ちょっとわかりにくい? そんな人は、ぜひ動画でお楽しみください。


竹入正一さん

たけいり・まさかず。1944年生まれ。長野県猟友会副会長、上伊那猟友会会長。長野県営総合射撃場の管理者を務めるかたわら、年間3〜4万発という驚異的な弾数を撃ち続ける、まさに銃を抱いた70歳。