2日間にわたって同行させていただいた狩猟の合間に、鍋澤さんが銃をメインテナンスするということで、その様子を見学しながら、あれこれと質問させていただきました。新米ハンターにとっては、ライフル銃なんて10年も先のことではありますが、獲物を「撃つ」という行為そのものについては、いろいろと興味深いお話がうかがえました。……というわけで、今回はちょっとカタい「ハードウェア」の話題です。
これ、鍋澤さんがお使いのライフル銃なんですね。猟場で手にしてらっしゃるのと違って、部屋の中で改めて見ると……木目も明るいし、銃身がシルバーで、きれいですね!
ステンレスの銃身だからね。それに、これは6ミリ口径なんだけど、銃身が肉厚なんだよ。そのままだと重いから、銃身の外側を少し削って軽量化した設計になっているんだけど、それでもバランスは前が重くなってるね。フィンランドの「サコ」って銃で、よくできてるんだよ。
6ミリ口径って……でも銃身は散弾銃みたいで、すごく太いですよね。……あれ、小さな穴が開いてる! 口径は6ミリだけど、銃身の太さは20ミリくらいありますね。
ステンレスの分厚い銃身で、精度が高いんだ。それに銃身に重量があるから、発砲したときの反動も小さい。精密射撃にはこのタイプがいちばんだと思うよ。
この2本の脚は、伏射のときに使うんですね。
そう、バイポッドっていうんだけど、ふだんはたたんでおいて、伏せて狙うときにカチャっと出すの。この短いタイプがいいんだよ。それに、実はこれが銃床に対して完全な固定ではなくて、少しだけ動くようになってるんだ。
へえ〜。じゃあ、それで構えてからも狙いが変えられるんですね!
いや……変えるといっても、ほんの少しだけどね。自分の体の位置を変えるほどではなくて、こうやって構えて……
……銃床のお尻のところを左手の拳に乗せて、それをちょっとだけ動かすの。なにしろ狙うのが200メートルとか300メートルとか先の獲物だから、そのわずかな動きで十分に狙いは調整できるし、それ以上に狙いを変えるのなら、構えるところからやり直しだね。こうやって、抱え込まずに手の上に乗せて、静かに引き金を引く……この銃には「シングルセットトリガー」という機構があって、狙いをつけたらボルト操作でトリガープルを軽くすることができる。もう、触れれば落ちるくらいにね。それがいちばん精密な射撃ができる方法だし、その感覚をいつも同じにしておきたいから、右手には夏も冬も同じ手袋を使うんだよ。
なるほど〜。それもまた北海道ならではのお話ですね。本州の巻き狩りなんかだと、やっぱり銃を動かして矢先を振らないと獲物を追えないですからね。
もちろん立って撃つこともあるわけだけど、どうしても長距離の伏射が基本になるよね、エゾシカの場合は。
それでスコープも倍率が高くて、大きなものが必要になるんですか?
倍率も必要ではあるんだけど、このスコープはレーザー距離計を内蔵していて、ボタンを押して獲物までの距離を計ったら、それに合わせて弾道のドロップの量を計算してくれるんだ。で、ドットサイトが動いて、それを合わせて撃てばいいようになっててね、便利なんだよ。
すごーーーーい!
机の上にあるのが前に使っていたスコープで、まあこれはふつうのスコープだったんだけど、最近はシカがずいぶんと遠くなっちゃったからねえ(笑。
うーん、やっぱり散弾銃とは世界が違いますねえ。10年か……。でも鍋澤さん、それにしても弾が小さいな、と思っているんですが、ライフル銃ってそういうものなんですか? わたしがふだん散弾やスラッグ弾ばかり見ているから、そう感じるんでしょうか……?
いや、これはライフル銃の実包としても、小さいんだよ。.243ウィンチェスターという弾で、弾頭のサイズは6.2ミリだね。それを手詰めして使っているんだけど、火薬量もいろいろ試して、いまは41.5グレインで使ってるんだ。エゾシカの狩猟には、これがベストだと思うんだよね。
なんか、ライフル弾ってすごくパワーのあるものだというイメージだったんですが……。
いや、散弾銃で撃つスラッグ弾も至近距離では威力があるんだけど、もちろん一定の射程距離を超えたら、基本的にはライフル銃のほうが力があるね。でも、その中でも大口径のライフル銃に比べたら、この6ミリはパワーが小さいんだ。……というか、狩猟で使って、その獲物を美味しくいただこうと思ったら、大口径主義は捨てたほうがいいんだけどなあ……。
……??? それ、どういうことなんですか?
獲物を仕留めるために必要な弾の威力というのは、その弾がどこに着弾するのかによって違ってくるんだよ。胴体に当てるんだったら、それなりにパワーがないと半矢になってしまうかもしれないけど、そもそも肉や内臓に着弾していたら、それは美味しく食べることはできない状態だよね? だから、基本的には頭を狙う。その場合に着弾するのは、柔らかい肉ではなく固い頭蓋骨だから、必要最小限の威力で十分なんだ。確実に仕留めるのであれば、獲物の全体に伝わる衝撃は、少ないほうがいい。背骨とかに着弾すると、その衝撃が神経を通じて全体に伝わってしまう。これは解体したときにはわからなくても、枝肉で3週間も熟成させたあとでブロックに切り分けると、筋膜と肉の間にうっすらとうっ血が広がっていることがあるんだ。美味しくないのは当然だよね。ウチでは「美味しく食べるための狩猟」をしているわけで、だからこそ獲物の動きが止まった瞬間を狙って、確実にヘッドショットで仕留めたいんだよ。そのための合理的な選択が、この6ミリなんだ。みんな、いちど試してみるといいと思うんだけどね(笑。
……ふむむむ……ちょっと次元が違いすぎて初心者にはイメージできないことばかりですが、威力よりも精度、ということなんですねえ……。いつか、そういう視点で狩猟ができるハンターになりたい……と思います!
いつでも弟子入り歓迎だよ(笑。
……というわけで、ていねいに手入れされている美しい銃を見ながら、かなり奥の深いお話をうかがうことができました。というか、弾道学なんて正直まだよくわかりませんが(!)少なくともライフル銃の所持許可を申請するまでに10年間の経験と実績が必要なことは、よくよくわかりましたね。まだまだ勉強!
そして、次回は北海道編の最終回、鍋澤さんの「北海道食美樂」が、食肉の生産者としてどういう姿勢で狩猟と向き合っているのか、狩猟後のお話から学ばせていただきました。お楽しみに!
なべさわ・まさし。日本初となるエゾシカ専門の食肉処理会社「北海道食美樂」創業メンバーとして、フルタイムで猟に出るミートハンター。食肉のプロとして射撃を極める64歳。