VOL.1-1

御歳86歳! 大ベテランのハンターは、アジサイ村の山里をカモシカのように登っていった。[岐阜編:1/3]

2014年9月16日

晴れて新米ハンターとなった狩りガールが、全国の〈狩猟の達人〉を訪ねる旅。野山や水辺を知り尽くしたベテランのハンターさんたちから、どんなお話が聞けるのでしょうか? それとも、厳しいオジサマにカミナリを落とされちゃったり……?

いえいえ、どんな世界でも〈達人〉と呼ばれる人は、たいてい優しいものです。そして「学びたい! 成長したい!」という心意気があれば、きっと気に入ってもらえることでしょう。だから、回りくどい遠慮はしないで、でも熱意と敬意をしっかり持って、まずは〈達人〉の扉をたたいてみましょう。もちろん「目指せ!狩りガール」読者の、あなたもね!

さて、こちらの狩りガールはおなじみのありちゃんが、岐阜県は関市、旧「板取村」を目指して、アジサイ街道を進みます。岐阜といえば「郡上のイノシシ」がよく知られ、静岡県の伊豆天城、兵庫県の丹波篠山と並んで三大産地ともいわれていますが、その郡上のすぐ隣に位置するのが板取という地域。そこに長年イノシシを追い続ける、巻き狩りの達人がいるというのです──。


あり

6月の終わりの見事なアジサイを眺めながら山道をドライブして、古くから「アジサイ村」として有名な板取の里へ、長屋行雄さんをお訪ねしました。郡上から板取にかけては、イノシシの美味しい場所としても有名です。狩猟仲間の宮本勲さんにもお付き合いをいただきます。また今回は、岐阜県猟友会副会長の大野恵章さんにご紹介をいただきました(取材のあとで、大野さんは岐阜県猟友会の会長に就任されています)。皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。

[長屋さん]

はいはい、いらっしゃい。遠いところまで……。

[宮本さん]

よく来たねえ(笑。

[長屋さん]

若いねえ。あんたは独身かね。おお、それで狩猟なんて、山に入って泥んこになって、そりゃあもったいない……(笑。

[宮本さん]

次は旦那さんを捕まえないと……でも仕留めちゃダメだなあ。生け捕りにしないと。

[長屋さん]

網猟はやらんけど、わな猟はくくりも箱もやるからね。何でも教えますよ(笑。

あり

ぜひぜひ! お願いします。それにしてもこのバッジの数がすごいんですが、どのくらい狩猟を続けていらっしゃるんですか?

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[長屋さん]

このバッジは、年度ごとの狩猟者登録のを女房がきれいにまとめてくれていて、いちばん古いのが昭和30年、1955年だね。実はこの前の年、昭和29年に狩猟を始めてるんだけど、結婚前だったんでバッジを失くしちゃったんだよ(笑。当時は26歳で、まあそれほど若くもなかったけれど、子どものころから山で遊んではいたからね。

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[長屋さん]

こっちの写真はかなり古くて、結婚したばかりのころだなあ。6日間で13頭くらい獲ったこともあったっけ。それからずいぶんとたくさんの獲物を仕留めてきたけど、それも結婚してからは女房が日記に付けててくれていてね……。

[宮本さん]

そんな若い時代もあったんか(笑。

[長屋さん]

それから942頭、やったかなあ……。

あり

そのころから主にイノシシを追ってらっしゃったんですか?

[長屋さん]

ワシが狩猟をはじめたころは、まだ、シカもカモシカもあまりおらんかったんだ。山のことも何も知らんで、昼飯代わりにチョコレートを1枚だけ持ってシカを追っても、なかなか獲れなくてなあ。そのうちにイノシシの足跡を見つけて、それを追ってて小さいのを獲って、それでイノシシの味を覚えてな。ここらの山は、イノシシは昔からいたけど、シカが一気に増えたのはここ20年くらいの話だな。ところが以前には規制でメスが獲れんかったわけで、その結果が岐阜県でも去年は3億5000万円くらいの農林業被害額になったわけだ。

手に負えん状況になってから慌ててなんかしようとしても、それじゃなかなか難しい。やはり山に入り続けることが大事なんだが、まあそのあたりも現場の狩猟者から見るといろいろ課題があってな。行政の施策としての駆除捕獲では「実態調査」で野生鳥獣の生息テリトリーを把握するというのが大事なんだが、担当さんから「実態調査なんですが……」と電話がかかってくるわけよ。実態調査というのは山に入って実際に観察するから実態調査なわけで、ワシは「お前さん、そりゃ実態調査でなくてアンケート調査だがな……」と返すんだがね(笑。サルの被害もあるが、テリトリーの把握とはいっても、サルはあちこちの山を渡って、ねぐらを何か所も持っていたりして、この辺りの山には人間どころか犬も入れない野生鳥獣の聖域みたいな場所がたくさんあるで、まあ農林業被害が絶えるということは、ないわなあ……。

あと、この辺はクマも多くて、雪の季節に形成層を舐めるために木の皮を剥ぐんで、それで一帯が丸はげになることもあってな。仕方ないのでそこは植林をするんだが、山肌に枯れ木が1本でも見えたら、そこに登ると10本は枯れとるのよ。カモシカも昔からいて、一時はすごく増えたんだけど、そこは駆除で対応したことでテリトリーが狭まって、最近の林業被害としては、カモシカは落ち着いているかな。

あり

実はさっきから気になっていたんですが、この毛皮ってカモシカ……ですよね?

[宮本さん]

そうそう。駆除捕獲で許可を取ってな。1頭ごとに記録が管理されとるで、それで毛皮にもタグが付いとるわけよ。で、中身は自家消費が認められて……。

[長屋さん]

まあ味はシカ肉と変わらんかったけどなあ(笑。

[編注]ニホンカモシカは1934年に国の天然記念物、1955年に特別天然記念物に指定されているが、農作物や幼齢造林木への食害も多いため、岐阜県では全国に先駆けて1978年から駆除を進めている。翌年には長野県へ、その後に愛知県、山形県、静岡県へと対応は拡大したが、全国的に見れば小規模な実施に留まっている。なお、ニホンカモシカは〈種〉として特別天然記念物の指定を受けているが、時代による状況の変化を受け、現在は〈地域指定〉への変更が検討されている。

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[長屋さん]

まあでもこの辺りで美味いのは、なんといってもイノシシよ。昔から、三重県や滋賀県のイノシシよりも岐阜県の郡上のイノシシは味がいいことで知られておったんだが、その郡上よりも板取のイノシシのほうが、いい値が付いたもんでな。一貫目あたり100円くらいは高かったな。

[宮本さん]

それからずいぶんと長いこと狩っとるわな。

[長屋さん]

まあ昔は毎日でも山に入っとったけど、近ごろは週に1、2度やな。それでも、少し前に駆除で行ったときは、6日間を連続で行ったなあ。

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[宮本さん]

この2月にもテレビの取材があったんやけど、ワシは犬を連れて勢子で入ってて、獲物の気配でサーッと追って行くから、若いカメラマンがよう付いて来れんのよ。

[長屋さん]

あのカメラマン、逃げるシカを一瞬だけだったけど、まあよう撮ったわ(笑。

あり

さすがに現役のハンターさん、本当にお元気ですよね。

[長屋さん]

そうはいってもテレビの取材のあとで手術して、7〜8キロは体重も落ちたんだけどな。

[宮本さん]

そうや、もう死にかけとったんや(笑。でもいまは復活して、ピンピンや。

[長屋さん]

じゃ、ちょっと山に行ってみるかね。

あり

はい、お願いします! でも、まずはお手やわらかに……(笑。

いろいろと興味深いお話をうかがった後で、長屋さんが60年に渡って歩き続けてきたメインの狩り場を見せていただくことになりました。次回の記事では〈達人〉にご案内いただき、ありちゃんもちょっと山に入ります。お楽しみに!


長屋行雄さん

ながや・ゆきお。1928年生まれ、86歳。狩猟歴60年の大ベテランながら、いまも山に入り続け、狩猟仲間から「板取のカモシカ」と呼ばれる。これまでに獲った獲物は900頭を超えている。

宮本勲さん

みやもと・いさお。1944年生まれ、70歳。仕事の関係で和歌山から岐阜の地に移り、かねて念願だった本格的な狩猟をはじめる。それ以来の右腕として、長屋さんとは長い付き合い。

大野恵章さん

おおの・やすふみ。岐阜県猟友会副会長(現・会長)、岐阜市猟友会会長。趣味の狩猟とは別に、金華山など岐阜市内での野生鳥獣出没事例への緊急対応も頻発し、個体数管理の施策でも多忙な日々。